アイリーンを見送ったローズマリーは、心配げに閉じられた扉を見つめた。
「アルフ、姫は、もう限界です。これ以上過労がたまれば、今度は姫様が倒れてしまわれます」
 ローズマリーが言うと、アルフレッドが立ち上がりローズマリーを抱きしめた。
「アルフ、いけません!」
 ローズマリーは言ったが、アルフレッドはしっかりとローズマリーを抱きしめた。
「俺も、できる限りアイリを助ける。だからマリー、君も頑張ってアイリを支えてくれ。あともう少しなんだ。今まで、二年以上も民と臣下を謀り、捨てられなかった音楽への夢を追いかけ、別れを告げるためにタリアレーナに留学したウィルだって、軽い気持ちでの事じゃない。マリーもあの万人の心を癒やすウィルのヴァイオリンの才能を知っているだろう? あのもって生まれた芸術の才能に蓋をして、一国の王となる為の最後の三年なんだ。ウィルは帰国したら、即日にも王位を継承することを承諾している。本当に、最後の自由になる三年なんだ。だから、マリーも協力してくれ」
「アルフ・・・・・・」
「ウィルが戻れば、アイリと俺の形だけの婚約は解消される。そうすれば、俺達の仲を秘密にする必要も無くなる」
「ああ、アルフ、お慕いしております」
「マリー、愛している。だから、もし俺と、その、姫が親密そうに見えても、誤解しないでくれ。ウィルが戻るまで、姫には何もしないというのは命を懸けた約束だし。ただ、大臣の何人かが、アイリが女王になったとき、俺が王配に相応しくないと、俺たちの仲を探る動きがある。もし疑われたら、ウィルが心配していたアイリの結婚話が再燃してしまうから、もう少しアイリと、その、恋人らしく振る舞わなくてはならなくなるかも知れない。だが、それはあくまでもフリだ。分かってくれるね?」
「もちろんです、アルフ」
 二人は深く情熱的なキスを交わし、アルフレッドは来たときと同じく、テラスに続く窓から外へ出て行った。
 いくら婚約しているとは言え、深夜に未婚のアイリーンの部屋にアルフレッドが出入りしているとなると、それはそれで違う意味のスキャンダルになってしまう。そのため、夜間にアイリーンを訪ねるとき、アルフレッドは警備の合間を縫って庭からこっそり部屋へと侵入し、ローズマリー以外、誰にも見られないように細心の注意を払っている。
 ローズマリーは、アルフレッドが去った窓の外をしばらくじっと見つめてから、窓に鍵をかけた。

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