私室のドアーを開けると、約束通り、アルフレッドが部屋の中で待っていた。
 しかし、それを見るなり二匹は威嚇の声を上げた。
「ちょっと、まってくれ! 怪しいものじゃないって、僕だよ、アルフレッドだ」
 アルフレッドは声をかけるが、二匹は益々気に入らないといった様子でアルフレッドを威嚇した。
「ラフディー、アイジー、扉をお願い」
 アイリーンが言うと、二頭はピタリと扉の前に座って警戒を始めた。
「さすがですね。私なんか、幼なじみのはずなのに、未だに姫に近寄る害獣扱いですよ」
 アルフレッドは言うと、窓辺のカウチに腰を下ろした。
「それは、あなたがお兄さまとお化けの格好をして私を驚かせて泣かせたからよ。二人とも記憶力がとても良いんだから」
 アイリーンの言葉に、アルフレッドがため息をついた。
「ところで、どうなさったんですか? 急に逢いたいなんて・・・・・・」
「お父様の事よ・・・・・・」
「お加減は確かに余り良く無いというお顔の色でしたが、そこまで心配されるほどの重症ではないかと思いますが・・・・・・。ベッドサイドの二頭と、笑顔でお話しされてましたから」
 アルフレッドの言う二頭は、ラフカディオとアイゼンハイムの事だ。アイリーンが巫女として神殿での務めを果たす間、二頭はアイリーンの命令で父王の護衛をしている。
「では、まだ、お兄様にお知らせしなくても良いわね」
「そうですね。陛下は後一月もお休みになられれば、お元気になられるでしょうし、下手に状況を知らせて一時帰国なんて事になると、後々の面倒事が二倍になりますからね」
 アルフレッドは言うと、心配げにアイリーンを見つめた。
「でも、アイリ、あなたは大丈夫ですか? もし、あなたが限界なら、ウィルを呼び戻すべきだ。王太子の仕事を投げ出して三年も留学だなんて、本来なら有り得ない我が儘です」
 アルフレッドの言葉は正しい。
 テーブルのカップに冷えた紅茶を注ぎながら、アイリーンは目を伏せた。
「まあ、余り役には立ちませんが、婚約者である自分に出来ることがあれば何なりと、お申し付けください」
 アルフレッドは言うと、少し大げさに制服に包まれた逞しい胸板を拳でたたいて見せた。
「これでも、ウィルとは幼なじみ、剣の腕も確かですが、脳筋と言われるほどバカではありませんから」
 優しくアルフレッドは言うと、笑顔でアイリーンの事を見つめた。
「ありがとうフレド。今日は、もう休みます」
 アイリーンが言うと、アイゼンハイムが良く通る声で二回吠えた。
 すると、すぐにノックをしてローズマリーが部屋に入ってきた。
「ローズ、もうお風呂に入って休みます」
「かしこまりました」
 二人の会話を聞いても、アルフレッドはその場を動こうとはしなかった。
 寝室と浴室のある奥の部屋にアイリーンが移動するのに二頭が付き添った。
 浴室の扉の中はアイゼンハイム、浴室の扉の外はラフカディオがガードするのが何時ものお約束で、この二頭に勝てるガードはデロス島には一人もいないとアイリーンもアルフレッドも思っている。

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