エクソシア皇帝からの書簡を受け取ったサイラスは、急いで兄である国王の元へと向かった。
順調に回復してきている兄のアーサーは、顔色もずいぶん良くなり、ベッドの上に起き上がり書類に目を通していた。
「陛下、お人ばらいを・・・・・・」
サイラスの願いに、アーサーは全員を部屋から下がらせた。
「兄上、実はエクソシア皇帝から書簡が届きました。本物に間違いないかと思われます」
サイラスの言葉にアーサーは驚きに目を見開いた。
「こちらでございます」
サイラスは最高級の紙で作られた封筒をアーサーに手渡した。
アーサーは封筒を確認し、封を開けると便箋の透かしを確認した。
「間違いない。アレイスト殿の親書に使われる便箋だ」
以前からエクソシア皇帝アレイストと手紙のやりとりのあったアーサーには、一目でその透かしと筆跡から書簡が本物だと判断することができた。
声に出すことなく、手紙を読み終えたアーサーは、目を閉じ大きなため息をついた。
手紙の内容は決して悪いものではなかった。デロスの愁いをエクソシアが全力を以て払うと約束するもので、パレマキリアとの和平条約締結が不要であると言う点は願ったり叶ったりだった。
一度、六ヶ国同盟の一国であるエクソシアの皇帝がデロスとパレマキリアとの問題に介入すれば、それは未来永劫とは言わなくとも、向こう数世代に於いてエクソシア皇帝がデロスの庇護者となり、全ての外敵からデロスを護ってくれることになる。
当然、国境の警備は派遣されてくるエクソシア軍にとってかわられ、今までのようにパレマキリアの好きに国境線を書き換えたり、突然侵攻して来たりすることは出来なくなる。
しかし、手紙の最後に書かれていた、デロスの緋色の真珠をエクソシア皇族に迎え入れたいと言う一文がアーサーの気持ちを暗くした。
「兄上・・・・・・」
思案するアーサーにサイラスが声をかけた。
「ああ、そなたも目を通しておく方が良いだろう」
アーサーは言うと、便箋をサイラスに手渡した。
まるで内情を知っているかのようなエクソシア皇帝アレイストからの手紙の内容にサイラスは眉をひそめ、最後の一文を目にするなり便箋を持った手を下ろした。
(・・・・・・・・エクソシアがパレマキリアに対して武力行使も厭わないとしたら、確かにパレマキリアとの和平条約など不要になる。そうすれば、アイリーンをダリウス王子に嫁がせる必要もなくなる。しかし、アイリーンをエクソシア皇族に迎えたいという事は、アレイスト陛下は、まだアイリーンを妻に迎えることを諦めていないと言うことか? 我等が表立ってエクソシアに助けを求めなかったのは、エクソシアがと言うよりも、アレイスト陛下が求める見返り、対価にアイリーンを望まれたら断れないからだ・・・・・・・・)
サイラスは迷いを兄王に聞かれたくなかったので、何も言わずに兄王の様子を窺った。
「アレイスト殿は、やはり、まだアイリのことを妻にと望まれているようだな・・・・・・」
サイラスが考えたのと同じことをアーサーが呟いた。
「数十人の妻を持つアレイスト殿、歳は私とあまり変わらないのだから、アイリにとっては父親に嫁ぐも同じ。しかし、パレマキリアのダリウス王子も、此度は本気でアイリを妻に迎えるつもりで軍まで動かしたのだろう。アイリは、上手く誤魔化して婚約はなかったことにすると言っていたが、そう上手くはいくまい」
アーサーの言葉に、サイラスはアイリーンが父王に『婚約はしたが、上手く解消する』と説明したと言ったことを思い出した。
しかし、事実は違う。あの和平交渉の席で、アイリーンは婚約ではなく、婚姻を承諾している。半年の婚約解消の祈りの後、三ヶ月以内にパレマキリア王室に輿入れすると、誓いの口付けまで交わしていることを父王であるアーサーだけがまだ知らないのだと思うと、サイラスは兄王に話すべきかと悩んだが、アイリーンがウィリアムを連れて帰るまでは、父王には病を治すことに専念してもらいたいと話していたことを思い出し、サイラスは敢えて真実を話すことを止めた。
アイリーンは若くして王太子代理の公務をこなし、倒れたアーサーに代わり、国王の代行を行い、一人三役をこなしただけでなく、万が一にも、ウィリアムが期日までに帰国できないときは、兄王子を廃太子とし、連座で自らの王位継承権を廃した上、サイラスが王太子となり、パレマキリアに王位継承権を渡さない為の手配をすべて行った上での出奔だった。
美しく、愛らしく、まだ可愛いさの残る十八の姫が、そこまでの決意に至る苦労を背負っていたことをアイリーンは父王に知られたくないのだと、サイラスは理解していた。
「どうしたサイラス、顔色が悪いが、何か他に良くない知らせでもあるのか?」
沈思していたサイラスは、兄の言葉に慌てて頭を横に振った。
「いいえ、兄上。ただ、神殿に籠もっているアイリの事を考えていただけでございます」
「そうか。アイリがおらず、さぞやアイゼンハイムもラフカディオも寂しくしていることだろう」
アーサーは言うと、サイラスに二匹を連れてくるように頼んだ。
順調に回復してきている兄のアーサーは、顔色もずいぶん良くなり、ベッドの上に起き上がり書類に目を通していた。
「陛下、お人ばらいを・・・・・・」
サイラスの願いに、アーサーは全員を部屋から下がらせた。
「兄上、実はエクソシア皇帝から書簡が届きました。本物に間違いないかと思われます」
サイラスの言葉にアーサーは驚きに目を見開いた。
「こちらでございます」
サイラスは最高級の紙で作られた封筒をアーサーに手渡した。
アーサーは封筒を確認し、封を開けると便箋の透かしを確認した。
「間違いない。アレイスト殿の親書に使われる便箋だ」
以前からエクソシア皇帝アレイストと手紙のやりとりのあったアーサーには、一目でその透かしと筆跡から書簡が本物だと判断することができた。
声に出すことなく、手紙を読み終えたアーサーは、目を閉じ大きなため息をついた。
手紙の内容は決して悪いものではなかった。デロスの愁いをエクソシアが全力を以て払うと約束するもので、パレマキリアとの和平条約締結が不要であると言う点は願ったり叶ったりだった。
一度、六ヶ国同盟の一国であるエクソシアの皇帝がデロスとパレマキリアとの問題に介入すれば、それは未来永劫とは言わなくとも、向こう数世代に於いてエクソシア皇帝がデロスの庇護者となり、全ての外敵からデロスを護ってくれることになる。
当然、国境の警備は派遣されてくるエクソシア軍にとってかわられ、今までのようにパレマキリアの好きに国境線を書き換えたり、突然侵攻して来たりすることは出来なくなる。
しかし、手紙の最後に書かれていた、デロスの緋色の真珠をエクソシア皇族に迎え入れたいと言う一文がアーサーの気持ちを暗くした。
「兄上・・・・・・」
思案するアーサーにサイラスが声をかけた。
「ああ、そなたも目を通しておく方が良いだろう」
アーサーは言うと、便箋をサイラスに手渡した。
まるで内情を知っているかのようなエクソシア皇帝アレイストからの手紙の内容にサイラスは眉をひそめ、最後の一文を目にするなり便箋を持った手を下ろした。
(・・・・・・・・エクソシアがパレマキリアに対して武力行使も厭わないとしたら、確かにパレマキリアとの和平条約など不要になる。そうすれば、アイリーンをダリウス王子に嫁がせる必要もなくなる。しかし、アイリーンをエクソシア皇族に迎えたいという事は、アレイスト陛下は、まだアイリーンを妻に迎えることを諦めていないと言うことか? 我等が表立ってエクソシアに助けを求めなかったのは、エクソシアがと言うよりも、アレイスト陛下が求める見返り、対価にアイリーンを望まれたら断れないからだ・・・・・・・・)
サイラスは迷いを兄王に聞かれたくなかったので、何も言わずに兄王の様子を窺った。
「アレイスト殿は、やはり、まだアイリのことを妻にと望まれているようだな・・・・・・」
サイラスが考えたのと同じことをアーサーが呟いた。
「数十人の妻を持つアレイスト殿、歳は私とあまり変わらないのだから、アイリにとっては父親に嫁ぐも同じ。しかし、パレマキリアのダリウス王子も、此度は本気でアイリを妻に迎えるつもりで軍まで動かしたのだろう。アイリは、上手く誤魔化して婚約はなかったことにすると言っていたが、そう上手くはいくまい」
アーサーの言葉に、サイラスはアイリーンが父王に『婚約はしたが、上手く解消する』と説明したと言ったことを思い出した。
しかし、事実は違う。あの和平交渉の席で、アイリーンは婚約ではなく、婚姻を承諾している。半年の婚約解消の祈りの後、三ヶ月以内にパレマキリア王室に輿入れすると、誓いの口付けまで交わしていることを父王であるアーサーだけがまだ知らないのだと思うと、サイラスは兄王に話すべきかと悩んだが、アイリーンがウィリアムを連れて帰るまでは、父王には病を治すことに専念してもらいたいと話していたことを思い出し、サイラスは敢えて真実を話すことを止めた。
アイリーンは若くして王太子代理の公務をこなし、倒れたアーサーに代わり、国王の代行を行い、一人三役をこなしただけでなく、万が一にも、ウィリアムが期日までに帰国できないときは、兄王子を廃太子とし、連座で自らの王位継承権を廃した上、サイラスが王太子となり、パレマキリアに王位継承権を渡さない為の手配をすべて行った上での出奔だった。
美しく、愛らしく、まだ可愛いさの残る十八の姫が、そこまでの決意に至る苦労を背負っていたことをアイリーンは父王に知られたくないのだと、サイラスは理解していた。
「どうしたサイラス、顔色が悪いが、何か他に良くない知らせでもあるのか?」
沈思していたサイラスは、兄の言葉に慌てて頭を横に振った。
「いいえ、兄上。ただ、神殿に籠もっているアイリの事を考えていただけでございます」
「そうか。アイリがおらず、さぞやアイゼンハイムもラフカディオも寂しくしていることだろう」
アーサーは言うと、サイラスに二匹を連れてくるように頼んだ。


