予定よりもダリウス王子の帰還が遅れたこともあり、カルヴァン皇太子は半ば強引に国王との面談を取り付けた。
国王のサロンに招かれたカルヴァンは、一国の国王とも思えないほどおどおどとした国王の姿に、デロスから速やかに撤退することと、和平条約にかこつけて承諾させた、デロスの王女とダリウス王子との婚約並びに婚姻を白紙撤回するように申し入れた。そして、今回の侵攻はデロス不可侵を求め続けていた六ヶ国同盟の申し入れを著しく無視した行動であり、六ヶ国同盟としては、デロスの王女は六ヶ国同盟に加盟する国の元首もしくは、その一族に嫁ぐことが期待されており、もしそれに反する行動をとるならば、六ヶ国同盟としては武力を以てパレマキリアに対抗する用意があることを突きつけた。
それから、デロス王女の嫁ぎ先としてはエクソシアが最有力候補であり、エクソシア皇帝は王女を一族に加えることを心から望んで居ると付け加えた。
国王は顔色を青から土色に変えながら強大な隣国であるエクソシアの皇帝がデロスの庇護者として立とうとしていることを悟った。
「し、しかし、アイリーン王女と我が息子、ダリウスは幼なじみの上、相思相愛なのでございます。その二人を引き離す事は、いくら六ヶ国同盟といえども人道的に如何なものでございましょうか?」
国王の言葉にカルヴァンは耳を疑った。
「今、何とおっしゃられましたか?」
聞き間違いに違いないとばかりに、カルヴァンは問い返した。
「ですから、デロスのアイリーン王女とダリウスは幼なじみ。互いに良く知る仲で、二人は相思相愛なのでございます」
国王の相思相愛という言葉に、カルヴァンの脳裏に怯えながら婚約の事を話したアイリーンの姿が蘇った。
「申し訳ない、誰と誰が相思相愛と仰られる?」
念のため、もう一度カルヴァンが聞き返すと、国王は笑顔を取り戻しながら答えた。
「ですから、デロスのアイリーン王女と我が息子ダリウスは相思相愛なのです。長年の密かな逢瀬を経て、王女を我が国に嫁がせたくないと言うデロス王家の意向に対抗するため、少し乱暴なやり方ではございましたが、想い合う二人を早く添い遂げさせてやりたく、今回のような方法をとることでデロス王家の反対意見を封じたというのが真実でございます」
二人が相思相愛だと信じて疑わない国王の言葉に、カルヴァンは唖然として言葉がなかなか出てこなかった。
「つ、つまり、陛下は、そ、その、ご子息のダリウス殿下とデロスのアイリーン王女が相思相愛だと仰るのですか?」
やっとの事で問い返すと、国王はホクホクの笑顔を浮かべていた。
「左様でございます。幼い頃から、何度もダリウスは国境近くの城に姫を招待し、親しくするうちに、自然と二人は互いを想い合う様になったのでございます」
国王は、まるで自分の事のように嬉しそうに説明した。
「そのお話はどちらから?」
情報源を特定するべく、カルヴァンは問いかけた。
「話は、全て息子のダリウスより聞き及んでおります。何でも、デロス王家はダリウスとの婚姻を回避するため、無理矢理、姫を婚約させたとか。それも、神殿で巫女のように儀式をする姫を国に留め置くため、無理矢理、降嫁させる婚約を決めたと。ですが姫の心は婚約者にはあらず、ダリウスが自ら姫の救出の為にデロスまで赴き、姫との婚姻を正式なものとしたのでございます」
身勝手なダリウス王子の言葉を真に受け、本当に二人が相思相愛だと信じて疑わない国王の言葉に、カルヴァンは眩暈を感じ、頭痛がするのを堪えた。
「どうにも、我等、六ヶ国同盟が聞き及んでいる話とは大きく食い違うようですが・・・・・・」
相手は一国の国王、頭ごなしに否定することも出来ず、カルヴァンは言葉を選びながら言った。
「愛し合う二人のことは、父である私の口からお話しするよりも、ダリウスの帰還後、本人からお話しさせていただくのが一番かと・・・・・・」
国王の言葉に『なら、とっとと首に縄でも付けて早く連れてこい!』と、怒鳴りたくなるのをカルヴァンは必死に我慢した。
「して、そのダリウス殿下はいつ頃お戻りになられるのか?」
「明日には・・・・・・」
既に『明日には・・・・・・』と言う言葉を聞くのは三回目だった。
最初の二回は、晩餐の席での事だったが、結局、翌日も翌々日もダリウス王子は帰還しなかった。
「なにぶん、愛しい姫が二人の婚姻を成就させるために神殿に籠もって居るとのこと、姫の体を心配してダリウスも国境の城を離れがたく、帰還が遅れておりまして・・・・・・」
追い討ちをかけるような国王の言葉に、カルヴァンの堪忍袋の緒が切れた。
バン!
カルヴァンが思い切りテーブルに手を打ち付けると、鋭い音が部屋に響いた。
「このカルヴァン、エクソシアの皇帝の意を以て参っております。ダリウス殿下が悪戯に帰還を遅らせるのであれば、デロス不可侵の申し入れに従わない貴国に対して、武力行使も厭うなと皇帝よりお言葉を戴いております。皇帝陛下が此度は本気であること、お忘れないように・・・・・・」
表面的な言葉も声音も穏やかではあったが、如何にカルヴァンが不愉快であるかを国王は肌で感じていた。
エクソシアが本気になれば、デロス方面に軍の主力部隊を展開しているパレマキリアには対抗手段が無く、王都がエクソシア寄りにある事からも、一番にこの王都が狙われ、王城に攻め込まれることは言わずもがなの事だった。
折しも、きな臭くなったエイゼンシュタインの同盟国、イルデランザ公国支援の為にエクソシア軍がパレマキリア国内を通過中であり、いつ何時、その戦準備を整えたエクソシア軍がパレマキリアに刃を向けるか知れない状況にあったので、カルヴァンの『武力行使も厭わない』と言う言葉が、エクソシアの間違うことない本気を示しているのだと、国王はカルヴァンの来訪の真意を悟った。
「ダリウスが戻り、ダリウス本人の口から話をお聞きいただければ、殿下にもお分かり戴けるはず」
国王の言葉はカルヴァンの怒りに油を注ぐ事にしかならなかったが、国王本人は全くその事に気付いていなかった。
☆☆☆
国王のサロンに招かれたカルヴァンは、一国の国王とも思えないほどおどおどとした国王の姿に、デロスから速やかに撤退することと、和平条約にかこつけて承諾させた、デロスの王女とダリウス王子との婚約並びに婚姻を白紙撤回するように申し入れた。そして、今回の侵攻はデロス不可侵を求め続けていた六ヶ国同盟の申し入れを著しく無視した行動であり、六ヶ国同盟としては、デロスの王女は六ヶ国同盟に加盟する国の元首もしくは、その一族に嫁ぐことが期待されており、もしそれに反する行動をとるならば、六ヶ国同盟としては武力を以てパレマキリアに対抗する用意があることを突きつけた。
それから、デロス王女の嫁ぎ先としてはエクソシアが最有力候補であり、エクソシア皇帝は王女を一族に加えることを心から望んで居ると付け加えた。
国王は顔色を青から土色に変えながら強大な隣国であるエクソシアの皇帝がデロスの庇護者として立とうとしていることを悟った。
「し、しかし、アイリーン王女と我が息子、ダリウスは幼なじみの上、相思相愛なのでございます。その二人を引き離す事は、いくら六ヶ国同盟といえども人道的に如何なものでございましょうか?」
国王の言葉にカルヴァンは耳を疑った。
「今、何とおっしゃられましたか?」
聞き間違いに違いないとばかりに、カルヴァンは問い返した。
「ですから、デロスのアイリーン王女とダリウスは幼なじみ。互いに良く知る仲で、二人は相思相愛なのでございます」
国王の相思相愛という言葉に、カルヴァンの脳裏に怯えながら婚約の事を話したアイリーンの姿が蘇った。
「申し訳ない、誰と誰が相思相愛と仰られる?」
念のため、もう一度カルヴァンが聞き返すと、国王は笑顔を取り戻しながら答えた。
「ですから、デロスのアイリーン王女と我が息子ダリウスは相思相愛なのです。長年の密かな逢瀬を経て、王女を我が国に嫁がせたくないと言うデロス王家の意向に対抗するため、少し乱暴なやり方ではございましたが、想い合う二人を早く添い遂げさせてやりたく、今回のような方法をとることでデロス王家の反対意見を封じたというのが真実でございます」
二人が相思相愛だと信じて疑わない国王の言葉に、カルヴァンは唖然として言葉がなかなか出てこなかった。
「つ、つまり、陛下は、そ、その、ご子息のダリウス殿下とデロスのアイリーン王女が相思相愛だと仰るのですか?」
やっとの事で問い返すと、国王はホクホクの笑顔を浮かべていた。
「左様でございます。幼い頃から、何度もダリウスは国境近くの城に姫を招待し、親しくするうちに、自然と二人は互いを想い合う様になったのでございます」
国王は、まるで自分の事のように嬉しそうに説明した。
「そのお話はどちらから?」
情報源を特定するべく、カルヴァンは問いかけた。
「話は、全て息子のダリウスより聞き及んでおります。何でも、デロス王家はダリウスとの婚姻を回避するため、無理矢理、姫を婚約させたとか。それも、神殿で巫女のように儀式をする姫を国に留め置くため、無理矢理、降嫁させる婚約を決めたと。ですが姫の心は婚約者にはあらず、ダリウスが自ら姫の救出の為にデロスまで赴き、姫との婚姻を正式なものとしたのでございます」
身勝手なダリウス王子の言葉を真に受け、本当に二人が相思相愛だと信じて疑わない国王の言葉に、カルヴァンは眩暈を感じ、頭痛がするのを堪えた。
「どうにも、我等、六ヶ国同盟が聞き及んでいる話とは大きく食い違うようですが・・・・・・」
相手は一国の国王、頭ごなしに否定することも出来ず、カルヴァンは言葉を選びながら言った。
「愛し合う二人のことは、父である私の口からお話しするよりも、ダリウスの帰還後、本人からお話しさせていただくのが一番かと・・・・・・」
国王の言葉に『なら、とっとと首に縄でも付けて早く連れてこい!』と、怒鳴りたくなるのをカルヴァンは必死に我慢した。
「して、そのダリウス殿下はいつ頃お戻りになられるのか?」
「明日には・・・・・・」
既に『明日には・・・・・・』と言う言葉を聞くのは三回目だった。
最初の二回は、晩餐の席での事だったが、結局、翌日も翌々日もダリウス王子は帰還しなかった。
「なにぶん、愛しい姫が二人の婚姻を成就させるために神殿に籠もって居るとのこと、姫の体を心配してダリウスも国境の城を離れがたく、帰還が遅れておりまして・・・・・・」
追い討ちをかけるような国王の言葉に、カルヴァンの堪忍袋の緒が切れた。
バン!
カルヴァンが思い切りテーブルに手を打ち付けると、鋭い音が部屋に響いた。
「このカルヴァン、エクソシアの皇帝の意を以て参っております。ダリウス殿下が悪戯に帰還を遅らせるのであれば、デロス不可侵の申し入れに従わない貴国に対して、武力行使も厭うなと皇帝よりお言葉を戴いております。皇帝陛下が此度は本気であること、お忘れないように・・・・・・」
表面的な言葉も声音も穏やかではあったが、如何にカルヴァンが不愉快であるかを国王は肌で感じていた。
エクソシアが本気になれば、デロス方面に軍の主力部隊を展開しているパレマキリアには対抗手段が無く、王都がエクソシア寄りにある事からも、一番にこの王都が狙われ、王城に攻め込まれることは言わずもがなの事だった。
折しも、きな臭くなったエイゼンシュタインの同盟国、イルデランザ公国支援の為にエクソシア軍がパレマキリア国内を通過中であり、いつ何時、その戦準備を整えたエクソシア軍がパレマキリアに刃を向けるか知れない状況にあったので、カルヴァンの『武力行使も厭わない』と言う言葉が、エクソシアの間違うことない本気を示しているのだと、国王はカルヴァンの来訪の真意を悟った。
「ダリウスが戻り、ダリウス本人の口から話をお聞きいただければ、殿下にもお分かり戴けるはず」
国王の言葉はカルヴァンの怒りに油を注ぐ事にしかならなかったが、国王本人は全くその事に気付いていなかった。
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