お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 王宮の上に広がる星空を見上げていたラフカディオは、懲りもせずに城の敷地内を動き回るゴキブリのようなパレマキリアの間者の動きに耳を澄ませた。
 雲一つない夜空からは大きく丸い月の光が降り注ぎ、ラフカディオは野生の呼び声がひときわ高く自分を呼ぶのを感じた。
 ガサリと間者が立てるには大きな足音がし、アルフレッドが歩み寄ってきた。
「おい、ラフカディオ!」
 ラフカディオにとって、アルフレッドは敬愛するアイリーンの周りをウロウロする目障りな男でしかなかった。そんな、目障りな男の分際で自分の名を呼び捨てにするアルフレッドに対する腹立たしさをラフカディオは隠そうとせず、警戒を緩めながらも鋭い眼で睨みつけチラリと牙を見せた。
「おおっと! それじゃあアイリの白銀の狼じゃなく、野生の狼みたいだぜ。こんなに月が大きいと、お前さん野生の声に勝てないんだろ。こういう時はアイゼンハイムに代わって貰ったらどうだ? お前さんが人を噛み殺したなんて知ったら、アイリが悲しむからな」
 アルフレッドは言うと、部屋に戻れと言わんばかりに、部屋の扉を指差した。
 目障りな男ごときに命令される筋合いはなかったが、アイリーンの名を出されるとラフカディオは逆らえず、ぐっと堪え窓の方へと歩み寄った。
 アイリーンの寝室で、もうほとんど自分の匂いしかしなくなったクッションに、必死に鼻を付けて愛するアイリーンの香りを嗅いでいたアイゼンハイムは、戻ってきたラフカディオの姿と庭のアルフレッドの気配を確認すると、渋々と寝室を後にした。
 アイゼンハイムが居なくなったのを確認すると、ラフカディオはアイリーンのベッドに飛び乗り、ベッドカバーをずらし二つ並んだ枕の間にダイブした。
 温もりはないが、まだまだアイリーンの香りがした。大きくアイリーンの香りを吸い込むと、ラフカディオの頭の奥で響いていた『殺せ! 殺してしまえ!』という野生の声が小さくなっていく。
 アイリーンに逢いたいとラフカディオは思った。このままアイリーンが戻らないのならば、自分が城を守る意味は何だろうかと考えずにはいられなかった。しかし、アイリーンは自分が戻るまで城を頼むと言って神殿に籠もった。ならば、主であるアイリーンは必ず戻ってくるはずだと、ラフカディオは考え直した。そして起きあがると、ベッドカバーを前足で伸ばして直し、ベッドの真ん中に体を横たえた。

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