お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 翌日の晩餐後、男だけの酒の集まりでは、贈り物のどこが気に入らなかったのかと、国王や宰相からカルヴァンは質問責めにあったが、妻とする相手に敬意を払い、婚姻が整うまで女性を断っているのだとカルヴァンは説明した。みな、カルヴァンがそこまでする相手が誰か聞き出したくて、あの手この手で迫ったが、カルヴァンは答えずにやり過ごした。


 やっと解放されたカルヴァンは、与えられた客室に戻るとすぐに寝室に下がった。そして、アイリーンに貰った白銀の一房の毛を取り出した。
 イエロス・トポスからアイリーンに贈られた白銀の狼、ラフカディオ。カルヴァンがカルヴァドスと名乗り始めてまだ日が浅い頃に、海の女神の祭典で見たのが最初だった。皇族としてではなく、気軽な船乗り姿故に遠目で見ることしか出来なかったが、それ以来、祭典の度に姫巫女に寄り添う姿を毎年見かけた。
 緋色に輝くアイリーンに付かず離れず、堂々と歩く白銀に輝く姿は、アイリーンの直ぐ後を歩く赤く光るアイリーンの愛犬アイゼンハイムとは対照的な存在だった。
 白銀の姿が傅く度、緋色に輝く姫巫女が女神の使者であるとする祭典が単なる儀式ではなく、本当に姫巫女が海の女神に愛されていると誰もが感じ、姫巫女がデロスから居なくなるなどあってはならないことだと感じさせた。
 白銀の狼が姫の命令しか聞かないという事はデロスでは常識だったし、それがまたアイリーンを神聖な存在にしていた。何しろ、姫が生まれる度にイエロス・トポスが白銀の狼を贈るわけではない。何らかのお告げが神から下ると、幼い姫に幼い白銀の狼が贈られることは六ヶ国同盟の王族、皇族ならば知らない者はない。そんな高貴な当代姫巫女であるアイリーンに無理矢理な事をするだけで、六ヶ国同盟としては黙ってはいられない。ましてや海の女神の言葉を伝える唇を強引に奪うなど、海の女神を愚弄するも同じだと六ヶ国同盟国の者なら誰でも思うだろうが、海の恩恵に薄いパレマキリアでは、海の女神の存在すら軽んじられているのかもしれないとカルヴァンは思った。
 とっとと本題に入り、宣戦布告して平定してしまいたいというのに、カルヴァンの来訪の意図を知ってか知らずか、豪華なもてなしで話をする暇を与えず、明日にはカルヴァンが殺してやりたいくらい憎らしいダリウス王子が帰還するという。
 時々言葉を交わす国王からは、国王らしい覇気も感じられないが、どうやら対デロス政策は全て息子のダリウス王子に任せていると言うような言葉を口にするあたり、息子の暴走を止める力もない王らしいとカルヴァンはあたりをつけていた。

(・・・・・・・・イエロス・トポスの神聖なる白銀の狼よ、どうか私に力を貸して欲しい。この忌まわしいパレマキリアに囚われたアイリーンの心を自由にするため、私は明日の晩、ダリウス王子に決闘を申し込む。アイリーンの自由を賭けて。どうか姫を守る力を私にほんの少しで良いから分けていただきたい。無様な負けを来すことがないように・・・・・・・・)

 祈りながらカルヴァンは、海賊相手に鍛えた剣術が一国の王子に負けるとは思えなかったが、そう祈ることでアイリーンを味方に付けた気持ちになることができた。

(・・・・・・・・アイリ、今はどのあたりにいるのだろうか? そろそろ国に向かってエクソシア沖の海上か・・・・・・。兄上のお体は大丈夫なのだろうか? あの時、屋敷の中にいらしたはずだが。ああ、アイリ、抱きしめるだけでなく、別れの口付けをしたかったのに、あの様に頑なな態度をとったのは兄上が同じ屋敷にいらしたからか? それとも、俺に話せないような悩みを抱えていたのか? まさか、本当に俺のことを忘れてダリウス王子に嫁ぐつもりなのか?・・・・・・・・)

 カルヴァンは想いを馳せるが、あの時のアイリーンには取り付く島もなく、長居すれば自らを傷付けてしまいそうで怖いほどだった。
「今更、手紙も出せぬしな・・・・・・」
 カルヴァンは呟くと、白銀の毛を胸元にしまい目を閉じた。そして、せめて夢の中ででも良いからアイリーンに逢いたいと願った。

☆☆☆