お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 突然の訪問とは言え、隣国にして巨大且つ強国であるエクソシアの皇太子をもてなすための晩餐は、それは盛大に開かれた。
 国王は自分達が六ヶ国同盟の申し入れを無視して聖地であるデロスに侵攻し、和平条約という名の下に無理矢理にアイリーン王女に結婚を承諾させたことなどなかったかのように、諸手をあげてカルヴァンを歓迎した。
 豪華な食事、最上級のワインと各種の酒、そして美しい娘達による舞踏やカルヴァンの身の回りの世話など、それこそ訪問の理由を知らないから故の歓迎ぶりだった。
 それは門外不出だったカルヴァン皇太子の最初の訪問国が六ヶ国同盟国ではなくパレマキリアだったという勝手な勘違いに依るもので、パレマキリア国王が一人感激にうち震えて盛り上がっていたからでもある。生憎、国王には政略結婚を仕掛ける娘も居らず、カルヴァンの目に付かないところで地団駄を踏んで悔しがりもしたが、親類筋から何人か適当な娘を見繕い、晩餐に招いてはカルヴァンに紹介する事に手抜かりはなかった。
 万が一にも、エクソシア皇家と血縁を結ぶことが出来れば、六ヶ国同盟に加盟することは出来なくとも、エクソシアの縁戚筋として貿易などあらゆる面で六ヶ国同盟加盟国に特例措置をもうけて貰うなどの融通を効かせて貰うことも不可能ではないと考えてのことだった。
 更に言えば、エクソシアの皇太子と自国の王太子が友情を結べば、パレマキリアの安泰は約束されるわけで、当然の事ながらデロス近くの城に滞在していたダリウス王子にも急ぎ帰還するようにと早馬が出され、パレマキリアは自国に攻め入ろうとしているエクソシアの大軍を国を挙げて大歓迎していた。
 余りのことに調子の狂ったカルヴァンは、晩餐の席でデロスのことを詰問するつもりだったのを諦め、明後日には王太子であるダリウスが帰還するので、ゆっくりと滞在するようにと勧める国王の言葉に渋々頷き、あてがわれた来賓客用の客室にアンドレと共に戻ったのだった。


 本当ならば、国に帰ったアイリーンにちょっかいを出されないように、自ら国境近くの城まで出向き、ダリウス王子に釘を刺すつもりだったカルヴァンだったが、国王が王城に呼び戻してくれるというのであれば、それに越したことはなく、まとめて印籠を渡せば済むことだと考える事にしたが、本当にこれで良いのかという疑問が沸き上がるばかりだった。

 部屋に戻ったカルヴァンは、大きなため息を付きながら堅苦しい礼服を脱ぎ捨て、楽な服装に戻ると居間のカウチに体を預けた。
「アンドレ、本当にこれで良いのか?」
 何となく釈然としないカルヴァンは、側に控えるアンドレに問いかけた。
「さあ、陸の戦いは海とは違いますからな。私にもイマイチ何とも言いかねますが、王子を呼び戻すというのなら、まとめてこの城で片を付ければよろしいのではございませんか?」
 アンドレに言われ、カルヴァンは仕方なく相槌を打った。
「そうだな。しかし、俺のアイリのファーストキスを奪った男だ。どう料理してやるか、今から策を練らなくてはな・・・・・・」
 カルヴァンは言うと、剣の手合わせを申し出るか、それとも、二人が揃ったところで宣戦布告して国王も王太子も血祭りに上げるべきかを考え始めた。
「殿下、私は隣室に控えさせていただきます」
 アンドレは言うと、続きの間へと下がっていった。
 本来、続きの間は使用人が使う部屋で、少将であるアンドレが使うべき部屋ではなかったが、敵国の王城内に皇太子を一人にするわけには行かないので、その部屋を使うのは当然の流れだった。それに、叩き上げの海軍士官であるアンドレには、板でできた寝台より柔らかい寝場所があれば、すべからく天国と言えたので、召使の部屋であろうと何の不満もなかった。

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