お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

「どうぞ、お入りくださいませ、お兄様。お呼び下されば、私から参りましたのに」
 アイリーンは言うと、立って戸口までウィリアムを迎えに行った。
「悪いが、二人とも席を外してくれ。ああ、コパルは外で待っていてくれ」
 ウィリアムの言葉に、カトリーヌは階段の方へと姿を消した。
「かしこまりました」
 ウィリアムをアイリーンに託すと、コパルは部屋の外へと出て行った。
 扉がしっかりと閉まるのを確認してから、アイリーンに導かれて腰を下ろしたカウチでウィリアムはアイリーンに向き直った。
「アイリ、ここはエクソシアの港だ」
「はい、存じております」
 アイリーンは静かに頷いた。
「ではアイリ、そなたはここで船を降り、公爵を探すのだ。どう考えても、ダリウス王子との婚姻で、そなたが幸せになれるとは思えない」
 ウィリアムはそっとアイリーンの手を取った。
「だからアイリ、ここでお別れだ」
 ウィリアムの言葉に、アイリーンは無言で頭を横に振った。
「お兄さま、その事は何度もお話ししたはずです。私はデロスの王女として、陛下と皇太子殿下の代理として、和平条約の締結の為に、私がダリウス殿下に嫁ぐことを承諾したのです。例え相手がダリウス殿下であったとしても、一国の王女が、陛下と皇太子殿下の代理であった私が、相手を謀るようなことはできません」
 アイリーンは澄んだ瞳で真っ直ぐに兄の瞳を見つめて言った。
「アイリ、私の愛しい妹。気高く美しく、崇高なる心の持ち主。己の危険を顧みず、行方知れずになった私を捜すため、単身タリアレーナまで来てくれた事には、本当に感謝している。それから一時とは言え、そなたを誤解し、王太子にあるまじき態度を取ったことは、本当に申し訳ないと思っている。アイリ、分かってくれ。私は王太子としてではなく兄として、アイリに幸せになって欲しいのだ。フレドがダメだったからと言って、一足飛びにダリウス王子に嫁ぎ、和平の為の人質になる必要はない。ここで降りて、その公爵を捜すのだ」
 ウィリアムの更なる説得にも、アイリーンは頭を横に振った。
「公爵は、エクソシアがデロスの庇護者となるため、皇帝陛下の命によってパレマキリアへ出陣されました。ですから、私がエクソシアに残ったとしても、なんの意味もないのです」
 アイリーンの言葉にウィリアムが目を剥いた。
「エクソシアがデロスの庇護者に? ダメだ! それでは、そなたは皇帝陛下に嫁ぐことになってしまう」
「お兄さま、私も一国の王女です。王女の役割がどういうものなのかは、よく存じております。ですから、もう公爵の事はおっしゃらないで下さいませ。私には、もう覚悟は出来ております。相手がパレマキリアのダリウス殿下であろうと、エクソシアの皇帝陛下であろうと、デロスの王女として国の平和のためであれば、国同士で定められた通り、どこへなりとも輿入れ致します」
 アイリーンの瞳は愁いをたたえてはいたが、その奥に確固たる決心をウィリアムは見て取った。
「わかった、アイリ。もう、この事は口にはしない。だが、父上も私も、アイリに幸せになって欲しいのだ。それだけは忘れないでいて欲しい」
 ウィリアムは言うと、アイリーンをギュッと抱き締めた。
「私は、クルーの邪魔にならないようにドクターの所に戻るよ」
 ウィリアムの言葉に、アイリーンは外で待つコパルに声をかけた。コパルは直ぐにウィリアムを支え、アイリーンと二人でドクターの部屋までウィリアムを送り届けた。

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