お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

「文字を教える?」
 ウィリアムは楽しそうに話すアイリーン問い返した。
「聞いたら、皆さん学校に行かずに小さいころから働いていらして、話はできても文字は読めなかったり、書けなかったり、それで、入港が近くなると、代筆の頼みが読み書きできる人に沢山集中するとのことで。それで、私が文字を教えたのです。ほとんどがエクソシアの方でしたけれど、パレマキアやタリアレーナの方もいらしたので、それぞれ、お手本を作って、よく使う言葉や、よく見る言葉を皆さんに教えていました」
「食事は?」
「船長や皆さんたちと、ご一緒させていただきました」
「どこで寝起きしていたんだ?」
 来るなとは思っていた質問だったが、実際に問いかけられると、一瞬心臓が縮み上がるような感じがした。
「私は、一等航海士の方の部屋のカウチに・・・・・・」
「なんだと!」
 ウィリアムが声を荒げた。
「未婚の娘が、見ず知らずの男と同じ部屋で寝起きしていたというのか?」
「それは、他のクルーの方に恋人だと説明した手前、別々の部屋というのはおかしいですし。でも、別々にベッドとカウチで別れて休み、着替えの時はもちろん入れ替わりで、お互いに相手の着替えを見ることのないようにしておりました」
 アイリーンが説明すると、ウィリアムは大きなため息をついた。
「なぜアイリが私を探しに来た? フレドが来るのが筋だろう! 他に好きな女を作り、アイリをそんな危険な目に合わせるなんて、万が一のことがあったら、もしものことがあったらどうするつもりなんだ! 男と違って、女性の場合は取り返しのつかないことなんだぞ。それを・・・・・・」
 ウィリアムは怒りのやり場に困り、動く左手の拳で自分の足を何度も叩いた。
「お兄様、おやめください。フレドには、お父様を守っていただく必要があったのです。そうでなければ、私もフレドにお兄様を探しに来るように頼みました。でも、私だったから、すぐにコパルの信頼を得ることができ、お兄様がコパルに託していた机のカギも貸して貰えたのです。ですから、カトリーヌさんが関わっていること、パレマキアの刺客がお兄様を狙っていたことなど、多くのことが事前にわかりました」
 アイリーンの説明に、ウィリアムは納得したようで無言で頷いた。
「コパルは、あれは賢い子だ。許されるなら、国に連れて帰り、教育を受けさせ、私の片腕に育て上げたいと思っているくらいだ」
 兄の言葉に、アイリーンの瞳が輝いた。
「ああ、お兄様。よかった。私もコパルを国に連れて帰れるように、叔母様にお願いしているのです。コパルの働きがなければ、こんな早くお兄様を見つけることはできませんでしたから」
「そういえば、コパルがそなたをローズと呼んでいたが・・・・・・」
「はい。ローズの名前と身分を借りて侯爵家に来たのですが、最初はお兄様の婚約者と言うことにしたのですが、つい私が『お兄様』と言ってしまうのを聞いていたコパルが、私とお兄様は似すぎている。だから、本当は婚約者ではなく兄妹なのではありませんかと言われて、コパルにだけは妹だと話したのです」
 アイリーンの説明にウィリアムは納得したように何度も頷いた。
 アイリーンは、コパルのおかげで色々な事を学んだとウィリアムに話して聞かせた。近隣の貧しい国々と冊封体制を築いているタリアレーナの行政や法律の在り方についてや、身分制度の厳しいタリアレーナで、いかに奴隷として子供たちが売り買いされ、ひどい思いをしているかなど、真剣に話し続けた。
「本当に、お城の外では、学ぶことばかりですわ」
 笑顔で締めくくったアイリーンをウィリアムは抱き寄せると口付けた。