男ばかりの貨物船に、二月もアイリーンが一人乗船していた事実に侯爵は驚きを隠せなかったが、エクソシア船籍のクーリエ船だと説明を受け、それであれば、クルーもそれなりのメンバーが揃えられていただろうと理解した。
「エクソシアのクーリエ船は、元海軍の将校が引退後に船籍を取得して認可を受けることも多いのですよ」
侯爵の説明に、アイリーンはカルヴァドスの片腕だったアンドレやドクターにはどことなく元軍人を感じさせるところがあったことを思い出した。
「私は、船では文字の読み書きが出来ないクルーに文字を教えおりましたの」
アイリーンは当たり障りのないことだけを説明した。
「船首に海の女神の彫像があり、海の凪いだ日は、そこで祈りを捧げることが出来ました」
「さすが、デロスの姫巫女でいらっしゃる」
侯爵の言葉に、アイリーンの瞳が翳りを帯びた。
「それも、パレマキリアへ嫁ぐまでのことでございます」
ガチャリと、カトラリーと皿が不協和音をたてた。
「殿下、いま、なんと仰られました?」
侯爵に問い返され、アイリーンはカトラリーを置いて侯爵に向き直った。
「此度のパレマキリア進軍における停戦と、和平条約締結のために、私がパレマキリアのダリウス殿下に嫁ぐことが決まりました」
それらしき情報はたしかにロバートの耳にも入っていたが、既に婚約し降嫁の決まっているアイリーンがダリウス王子に嫁ぐなどと言うことをデロス王が許すはずがないと考えていたので、今までロバートはその話には否定的だったが、こうして本人から『嫁ぐ』と言われると、信じないわけには行かなかった。
「ですが、陛下がお許しになられるとは・・・・・・」
ロバートの言葉にキャスリーンが俯いた。
「ここからの会話は、あくまでも姪と叔父の会話でお願いいたします」
アイリーンに釘を差され、ロバートは無言で頷いた。
「お父様は体調を崩し、公務をはずれていらっしゃいます。私が国を離れるまでは、私と、内大臣である伯父様の二人で公務をすべてこなしておりました。そこへパレマキリアからの侵攻があり、パレマキリアへ嫁ぐことは、私が直接ダリウス殿下とお話して決めたことで、お父様の許可は戴いておりません。ですが、それ以外にデロスを守る道がなかったと、そうご理解いただければと思います。このことは、まだ、お兄様にもお話ししてはおりません」
「なんと言うことだ! パレマキリアがデロスに侵攻する事は、完全なる六ヶ国同盟からのデロス不可侵の申し入れに反している! 姫が嫁がずとも、六ヶ国同盟に調停を申し立てれば、この様な脅して約束させたような婚約、すぐに解消する事が出来るでしょう」
ロバートの言葉に、アイリーンは六ヶ国同盟に調停を申し入れるという手があったことすら自分が知らなかったことを思い知らされた。
「姫、このまま、殿下の怪我が快癒するまでタリアレーナに滞在ください」
ロバートの言葉は嬉しかったが、アイリーンはやはり相手が例えダリウス殿下だとしても騙すような事はしたくないと思った。
「とりあえず、お兄様の健康を取り戻す事が一番ですから、それ以降のことは、追々考えるつもりです」
「かしこまりました」
ウィリアム不在なので、ロバートは大人しく退くことにした。
「ところで、あのカトリーヌという娘のことですが、殿下はなんと?」
気になってたまらなかったキャスリーンは、話に区切りがついたところで問いかけた。
「可能であれば、しばらくの間はこちらでメイド見習いとして仕事を覚えさせて戴き、その上で、どこか良い就職先を紹介して戴ければと・・・・・・」
「では、殿下とあの娘は特別な仲ではないのですね?」
ホッとしたように言うキャスリーンに、ロバートが未婚の娘の前で言うことかと咳払いした。
二人が実は深い仲になったこともあるとは言えず、アイリーンは笑みを浮かべて見せた。
デザートが運ばれ、アイリーンはエクソシアでの夢のような一時を思い出し、胸が締め付けられるように悲しくなった。
(・・・・・・・・お兄様を無事、国に送り届けたら、私はダリウス殿下に嫁ぐんだわ。もう、夢を見ている場合じゃない・・・・・・・・)
涙がこぼれそうになるのを必死に堪え、アイリーンがデザートを食べ終わると、ロバートがアイリーンとキャスリーンをサロンへと誘った。
「エクソシアのクーリエ船は、元海軍の将校が引退後に船籍を取得して認可を受けることも多いのですよ」
侯爵の説明に、アイリーンはカルヴァドスの片腕だったアンドレやドクターにはどことなく元軍人を感じさせるところがあったことを思い出した。
「私は、船では文字の読み書きが出来ないクルーに文字を教えおりましたの」
アイリーンは当たり障りのないことだけを説明した。
「船首に海の女神の彫像があり、海の凪いだ日は、そこで祈りを捧げることが出来ました」
「さすが、デロスの姫巫女でいらっしゃる」
侯爵の言葉に、アイリーンの瞳が翳りを帯びた。
「それも、パレマキリアへ嫁ぐまでのことでございます」
ガチャリと、カトラリーと皿が不協和音をたてた。
「殿下、いま、なんと仰られました?」
侯爵に問い返され、アイリーンはカトラリーを置いて侯爵に向き直った。
「此度のパレマキリア進軍における停戦と、和平条約締結のために、私がパレマキリアのダリウス殿下に嫁ぐことが決まりました」
それらしき情報はたしかにロバートの耳にも入っていたが、既に婚約し降嫁の決まっているアイリーンがダリウス王子に嫁ぐなどと言うことをデロス王が許すはずがないと考えていたので、今までロバートはその話には否定的だったが、こうして本人から『嫁ぐ』と言われると、信じないわけには行かなかった。
「ですが、陛下がお許しになられるとは・・・・・・」
ロバートの言葉にキャスリーンが俯いた。
「ここからの会話は、あくまでも姪と叔父の会話でお願いいたします」
アイリーンに釘を差され、ロバートは無言で頷いた。
「お父様は体調を崩し、公務をはずれていらっしゃいます。私が国を離れるまでは、私と、内大臣である伯父様の二人で公務をすべてこなしておりました。そこへパレマキリアからの侵攻があり、パレマキリアへ嫁ぐことは、私が直接ダリウス殿下とお話して決めたことで、お父様の許可は戴いておりません。ですが、それ以外にデロスを守る道がなかったと、そうご理解いただければと思います。このことは、まだ、お兄様にもお話ししてはおりません」
「なんと言うことだ! パレマキリアがデロスに侵攻する事は、完全なる六ヶ国同盟からのデロス不可侵の申し入れに反している! 姫が嫁がずとも、六ヶ国同盟に調停を申し立てれば、この様な脅して約束させたような婚約、すぐに解消する事が出来るでしょう」
ロバートの言葉に、アイリーンは六ヶ国同盟に調停を申し入れるという手があったことすら自分が知らなかったことを思い知らされた。
「姫、このまま、殿下の怪我が快癒するまでタリアレーナに滞在ください」
ロバートの言葉は嬉しかったが、アイリーンはやはり相手が例えダリウス殿下だとしても騙すような事はしたくないと思った。
「とりあえず、お兄様の健康を取り戻す事が一番ですから、それ以降のことは、追々考えるつもりです」
「かしこまりました」
ウィリアム不在なので、ロバートは大人しく退くことにした。
「ところで、あのカトリーヌという娘のことですが、殿下はなんと?」
気になってたまらなかったキャスリーンは、話に区切りがついたところで問いかけた。
「可能であれば、しばらくの間はこちらでメイド見習いとして仕事を覚えさせて戴き、その上で、どこか良い就職先を紹介して戴ければと・・・・・・」
「では、殿下とあの娘は特別な仲ではないのですね?」
ホッとしたように言うキャスリーンに、ロバートが未婚の娘の前で言うことかと咳払いした。
二人が実は深い仲になったこともあるとは言えず、アイリーンは笑みを浮かべて見せた。
デザートが運ばれ、アイリーンはエクソシアでの夢のような一時を思い出し、胸が締め付けられるように悲しくなった。
(・・・・・・・・お兄様を無事、国に送り届けたら、私はダリウス殿下に嫁ぐんだわ。もう、夢を見ている場合じゃない・・・・・・・・)
涙がこぼれそうになるのを必死に堪え、アイリーンがデザートを食べ終わると、ロバートがアイリーンとキャスリーンをサロンへと誘った。



