お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 アイリーンとカトリーヌが馬車を降りると、家令が二人を出迎え、そのままアイリーンを侯爵とウィリアムの待っているサロンへ、そして、カトリーヌは客間で待つようにと、一足先に客間へと案内された。


 アイリーンがサロンに入ると、ソファーに座るウィリアムに、侯爵と叔母のキャスリーンが挨拶をしているところだった。
「アイリーン殿下、この度はご挨拶もせず、大変失礼を致しました」
 侯爵に謝罪され、アイリーンは非常に居心地の悪いまま、ウィリアムの隣に腰をおろした。
「すべての責任は私にある。侯爵には全く責任はない。その事はご承知戴きたい」
 久しぶりに聞くウィリアムの声は、威厳のある王太子のものだった。
 その後、ウィリアムはカトリーヌに対する対応をキャスリーンに頼み、取り敢えず、カトリーヌはメイド見習いをしながら、ウィリアムの世話をすることになった。
 今まで、キャスリーンの話し相手と紹介されていたアイリーンは、正式にウィリアムの妹、アイリーン王女であることを屋敷内の使用人達に明かすこととなった。


 その後、部屋に戻ったウィリアムは、キャスリーンが手配した医師達の診断を受けた。
 背中に受けた切り傷は、さすがに既に治ってはいたが、女性のように美しく傷一つ無かったウィリアムの背中には、醜い刀傷が斜めに三本も刻みつけられていた。
 心配されていた右腕の傷は、まず、右肩の関節が抜けかかって居ることから激しい痛みと僅かな動きしか自由にならなかったことが分かり、まずは右肩のみ関節を入れる治療がなされた。
 さすがのウィリアムも、激しい痛みに思わず呻き声を上げながら、動く左手でしっかりとベッドの柱を掴みながら治療に耐えた。
 そして、ウィリアムが心配していた切り傷が三ヶ月も治らなかった理由も明らかになった。
 本来、背中の切り傷同様、すぐに治るものと思っていた腕の傷はずっと膿がでて、いくら消毒しても治る気配がなかった。
 理由は、傷の中に割れたガラス瓶の破片と、金属片が入っていたためで、これもウィリアムはベッドの柱にしがみつきながら、暗いカトリーヌの部屋ではよく見えなかったガラスの破片と金属片を取り除いて貰い、しっかりと縫合して貰った。

 そうこうしているうちに夕食の時間となり、ウィリアムのそばにいればなぜ来たのかを問い詰められるアイリーンは、タリアレーナに来て初めて、一階のダイニングで侯爵とディナーを共にすることにした。
 ウィリアムは、部屋に届けられた豪華な夕食をカトリーヌと二人でゆっくりと食べることにした。
 理由は簡単で、ウィリアムには介護が必要だったことと、平民でマナー教育を最低限しか受けていないカトリーヌが侯爵との食事に不安を抱いたからだった。しかし、何よりも一番の理由は、ウィリアムが本当はジョージではなく、伯爵家の次男ではなく一国の王太子であることをまだカトリーヌに知らせたくなかったからだった。

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