お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 タリアレーナでは、昼(ひる)日中(ひなか)に死者を運び出すのは太陽神に不敬だとされているので、日暮れの街を葬儀社の馬車が走っても注意を払うものは誰もいなかった。馬車は邪魔されることなく走り続けたが、カタリの街の中心に近い華やかなあたりに差し掛かると、着飾った貴族たちが訝しげな目で馬車を見つめた。
 馬車は、今は使われていない侯爵家のタウンハウスの裏口から敷地に入ると、待っていた侯爵家の馬車にウィリアムの入った棺を載せ替え、アイリーンとカトリーヌも侯爵家の豪華な馬車に乗り換えた。
 二台の侯爵家馬車は、表門から出るとカタリの中心街から外れた高台にある侯爵邸へと向かった。


 街の中心街を離れ、人通りもなくなってきたのを確認すると、コパルは棺の蓋を開けた。
「ジョージ様・・・・・・」
 涙を拭いながらコパルは起き上がろうとするウィリアムに手を貸した。
「コパル。心配をかけたな・・・・・・」
 ウィリアムが言うと、コパルは何度も何度も『ジョージ様』とウィリアムを呼んで泣き続けた。
「どうした? お前らしくないではないか」
 ウィリアムが言うと、コパルは袖口で涙を拭った。
「ジョージ様。本当に、本当に、本当に、ご無事で・・・・・・。私は、ジョージ様が心配で、ずっと生きた心地が致しませんでした。妹君のローズ様もいらっしゃって、とても心配されていらっしゃいました。毎日、町娘の姿をされて、あの風紀の悪い下町に、毎日のようにお出かけになって、ジョージ様を探されていたのです」
 場所が場所だけにアイリーンは一言も弱音を吐かなかったが、こうしてコパルから話を聞くとウィリアムは自分がどれほどの心配をかけていたのかを身に染みて感じた。それと同時に、王位継承権第二位のアイリーンが、病気の父を残し、王太子不在の国を離れてタリアレーナまでやってきたことにウィリアムは違和感を覚えた。

(・・・・・・・・なぜアイリーンが来た? 本来、アイリーンの代理ならば、婚約者であるフレドが来るはずだ。なぜ、海の女神の神殿で毎日の務めがあるはずのアイリーンがこんな遠くまで・・・・・・・・)

 ウィリアムが考えていると、荷物用の馬車の小さな窓から煌々と灯りのともった侯爵邸のシルエットが目に入り、間もなく馬車は侯爵邸の門をくぐった。
 しかし、細心の注意を払うため、ウィリアムの乗った馬車は表の車付けへと向かわず、敢えて一目のない裏荷車付けに横付けにされた。


 荷馬車の扉が開くなり、屋敷の若い男性使用人たちがウィリアムを棺ごと下ろした。
 コパルはすぐにウィリアムを支えようとしたが、大柄な使用人たちがウィリアムを抱え上げるようにして屋敷の中へ連れ去ってしまったので、仕方なく屋敷の中を通って表玄関へと向かい、アイリーンを出迎えることにした。

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