「カトリーヌは音楽院で一番の学友だった。もはや、二人とも退学処分ではあるがな。肝心の卒業演奏会に出席していないのだから・・・・・・」
「それだけですの? お兄様が、お金の都合をつけなくてはならないとお手紙に書かれていた方は、あの方でいらっしゃいますよね? しかも、この狭い部屋で、一つのベッドで三ヶ月も・・・・・・」
アイリーンの鋭い指摘に、ウィリアムは舌を巻いた。
以前のアイリーンであれば、二人が深い仲なのではなどと考える事もないお子様だったのに、三年近くも逢わないとこれほどに成長するものかと、ウィリアムは言葉を選んだ。
「確かに、カトリーヌと私の間には、男女の関係がある。それは否定しない。但し、一度きりだ。雪の降る凍え死にそうな寒さの中、やむを得ずのことだ。そのことは、カトリーヌもちゃんと理解している。だから、一度きり。それ以上はない」
ウィリアムはきっぱりと否定した。
「国へ、連れてお帰りになられるのですか?」
アイリーンの問いに、ウィリアムは少し首を傾けた。
「そうだな。まずは侯爵家でメイドとして働けるようにして戴き、その後のことは、それから考えるつもりだ」
「叔母さまは、お兄様がカトリーヌさんと駆け落ちしようとされたのではないかと疑っていらっしゃいます」
アイリーンの言葉に、ウィリアムは目を瞬いてアイリーンを見つめた。
「どこをどうしたら、そういう考えがでてくるのだ? 私を誰だと思っている?」
再び語気を荒くするウィリアムに、アイリーンは一歩下がって王太子に対する礼を取った。
「申し訳ございません。叔母上が心配されておりましたので、先にお耳に入れて置いた方がよいかと思いました。私は既に否定しておりますが、カトリーヌさんをご覧になられれば、叔母上が誤解されるのではないかと思いまして」
アイリーンが説明すると、ウィリアムは呆れたようにため息をついた。
「侯爵夫人も俗物になられたものだ。お前に否定され、どれほど浅はかな考えだと理解されたではあろうが」
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」
アイリーンは王太子に対しての礼を取り、深々と頭を下げた。
「もういい。それよりも、着替えを手伝ってくれ。ああ、場所は・・・・・・」
言ってからウィリアムは、アイリーンに傷を見せたくないと考え、言葉を飲み込んだ。
「私、カトリーヌさんに伺って参ります」
アイリーンは言うと、扉を開けて外を覗いた。
二人の話が聞こえないようにと、気を使ってくれたカトリーヌは、少し離れた石の階段の上に座っていた。
「カトリーヌさん、お兄様がお着替えをなさりたいと仰っていらっしゃっるのですが、お手をお貸しいただけますか?」
アイリーンに声をかけられ、カトリーヌは立ち上がると、スカートをパンパンと手で叩いて埃を落としながらアイリーンを見つめた。
「貴族様の兄妹って、あんなに堅苦しい会話をされるんですね」
カトリーヌは少し困惑したように言った。
「私なんか、平民の分際で気安く、ジョージなんて呼び捨てにしていて、不敬もよいところですね」
カトリーヌは寂しそうに言った。
「そんなことはございません。カトリーヌさんは、お兄様のご学友。私は妹でございますから」
アイリーンは妹であるからこそ、気安く兄の名を呼ぶことも、王太子である兄に対して、王女である自分の立場を越えて接することが出来のないのだと言う、言葉にならない思いをカトリーヌに伝えることはできなかった。
「そ、そうなんだ。貴族様ってのは、大変なんだね。あたしには、とってもついて行かれないよ」
寂しそうにカトリーヌは笑ってみせると、すぐに部屋に戻った。
ウィリアムの指示でアイリーンは部屋の隅で背を向けて待ちながら、カトリーヌに手伝って貰い身綺麗に支度を済ませたウィリアムに呼ばれて振り返った。
「カトリーヌ、剣を・・・・・・」
この三ヶ月、ベッドの下に布で包んで隠してあったアシュトン伯爵家の紋の入ったサーベルを取り出し、ウィリアムは腰につけた。
☆☆☆
「それだけですの? お兄様が、お金の都合をつけなくてはならないとお手紙に書かれていた方は、あの方でいらっしゃいますよね? しかも、この狭い部屋で、一つのベッドで三ヶ月も・・・・・・」
アイリーンの鋭い指摘に、ウィリアムは舌を巻いた。
以前のアイリーンであれば、二人が深い仲なのではなどと考える事もないお子様だったのに、三年近くも逢わないとこれほどに成長するものかと、ウィリアムは言葉を選んだ。
「確かに、カトリーヌと私の間には、男女の関係がある。それは否定しない。但し、一度きりだ。雪の降る凍え死にそうな寒さの中、やむを得ずのことだ。そのことは、カトリーヌもちゃんと理解している。だから、一度きり。それ以上はない」
ウィリアムはきっぱりと否定した。
「国へ、連れてお帰りになられるのですか?」
アイリーンの問いに、ウィリアムは少し首を傾けた。
「そうだな。まずは侯爵家でメイドとして働けるようにして戴き、その後のことは、それから考えるつもりだ」
「叔母さまは、お兄様がカトリーヌさんと駆け落ちしようとされたのではないかと疑っていらっしゃいます」
アイリーンの言葉に、ウィリアムは目を瞬いてアイリーンを見つめた。
「どこをどうしたら、そういう考えがでてくるのだ? 私を誰だと思っている?」
再び語気を荒くするウィリアムに、アイリーンは一歩下がって王太子に対する礼を取った。
「申し訳ございません。叔母上が心配されておりましたので、先にお耳に入れて置いた方がよいかと思いました。私は既に否定しておりますが、カトリーヌさんをご覧になられれば、叔母上が誤解されるのではないかと思いまして」
アイリーンが説明すると、ウィリアムは呆れたようにため息をついた。
「侯爵夫人も俗物になられたものだ。お前に否定され、どれほど浅はかな考えだと理解されたではあろうが」
「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」
アイリーンは王太子に対しての礼を取り、深々と頭を下げた。
「もういい。それよりも、着替えを手伝ってくれ。ああ、場所は・・・・・・」
言ってからウィリアムは、アイリーンに傷を見せたくないと考え、言葉を飲み込んだ。
「私、カトリーヌさんに伺って参ります」
アイリーンは言うと、扉を開けて外を覗いた。
二人の話が聞こえないようにと、気を使ってくれたカトリーヌは、少し離れた石の階段の上に座っていた。
「カトリーヌさん、お兄様がお着替えをなさりたいと仰っていらっしゃっるのですが、お手をお貸しいただけますか?」
アイリーンに声をかけられ、カトリーヌは立ち上がると、スカートをパンパンと手で叩いて埃を落としながらアイリーンを見つめた。
「貴族様の兄妹って、あんなに堅苦しい会話をされるんですね」
カトリーヌは少し困惑したように言った。
「私なんか、平民の分際で気安く、ジョージなんて呼び捨てにしていて、不敬もよいところですね」
カトリーヌは寂しそうに言った。
「そんなことはございません。カトリーヌさんは、お兄様のご学友。私は妹でございますから」
アイリーンは妹であるからこそ、気安く兄の名を呼ぶことも、王太子である兄に対して、王女である自分の立場を越えて接することが出来のないのだと言う、言葉にならない思いをカトリーヌに伝えることはできなかった。
「そ、そうなんだ。貴族様ってのは、大変なんだね。あたしには、とってもついて行かれないよ」
寂しそうにカトリーヌは笑ってみせると、すぐに部屋に戻った。
ウィリアムの指示でアイリーンは部屋の隅で背を向けて待ちながら、カトリーヌに手伝って貰い身綺麗に支度を済ませたウィリアムに呼ばれて振り返った。
「カトリーヌ、剣を・・・・・・」
この三ヶ月、ベッドの下に布で包んで隠してあったアシュトン伯爵家の紋の入ったサーベルを取り出し、ウィリアムは腰につけた。
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