翌日、一緒にウィリアムを探しに行こうとするアイリーンに、コパルは独りで行かせて欲しいと頼み込んだ。
アイリーンは一緒に探したくて、いても立ってもいられない気持ちを伝えたが、コパルは昨日の軍人が気になるからと、アイリーンを置いて出かけていった。
コパルは裏町に着くと、いろいろな店を覗いて歩いた。見るからに、良いところに勤めているページボーイ姿のコパルは、以前のように店から叩き出されることはなく、所々で店の物を一つ二つ買いもとめ、次へと移動した。
昼の時間が近くなって人通りが増える頃になると例の軍人が人待ち顔で現れてあちこちのビストロやカフェを覗く姿が目に入ったが、食事をとる事はなく、何度も道を行ったり来たりし、明らかに誰かを探している風だった。お昼の食事時間が終わる頃になると、何処へかはわからなかったが、男はスッと姿を消した。
そして、また、お茶の時間になると男は姿を現して同じことを繰り返しては消えていった。
軍人と顔を合わせないようにするため、逃げるように治安の悪い方へと向かってしまったコパルは、バラック街の階段を下りてきた娘に正面衝突してしまった。
「あら、あなた・・・・・・」
娘はコパルの事を知っているのか、笑顔で言った。
「昨日は、奴隷のような姿だったのに、今日は立派なページボーイ姿なのね。ほら、最近よくうろついている、あの危なそうな男にぶつかってお姉さんに謝って貰っていたわよね」
娘の言葉に、ああ、あれを見られていたのかと、コパルは少し安心した。
「もしかして、帰り道が分からないの?」
娘はとても親切だった。
「いえ、あの男に会いたくなくて隠れているだけです」
コパルが答えると、娘は大きなため息をついた。
「またあの男、ウロウロしているの? 本当を言うとね、私も逢いたく無くて時間をつぶしているのよ」
娘は言うと、今にも崩れそうに見える石段の端に腰を下ろした。
「あなた、いい匂いがするわね?」
娘は鼻をクンクンとさせて言った。
「え、あ、はい。キッシュを一つと、パンを幾つか。あと、甘味を少々買い求めましたので」
コパルは店を物色しながら買い求めた品を羅列した。
「ねえ、そのパンとキッシュ譲ってくれないかしら? 弟の具合が悪くて、出来たら買い物に行かないですませたいのよ。それに、早朝からの力仕事を終えて帰ってきて、一休みして買い物に出ようとすると、あの男がいつもいて辟易してるのよ」
娘に言われるまま、コパルはポケットからパンを取り出し、手に持っていたまだ温かいキッシュの入った袋を娘に手渡した。
「これで足りるかしら?」
娘の出した銅貨では足りない物だったが、コパルは食べる予定もなく買った物なので、快く娘に食べ物を譲った。
「ありがとう!」
パンとキッキュをしまい、踵を返して階段を上がろうとする娘の籠に縛られたハンカチにコパルの目が釘付けになった。
「お姉さん、名前、教えてくれませんか?」
コパルの言葉に娘は立ち止まると振り返った。
「ごめんなさい、名乗ってなかったわね。私はカトリーヌ。表通りのパン屋で働いてるの」
カトリーヌは笑顔で言った。
「よろしければ、明日も、キッシュとパンをお届けしましょうか? なんなら、野菜とかも」
コパルの言葉に、カトリーヌはコパルの事を見つめた。
「自分の姉弟は、皆病気で亡くなり、自分は今の姉に拾ってもらったんです。だから、病気の弟さんのそばを離れたくない気持ちは、とてもよく分かります」
コパルが言うと、カトリーヌはコパルのことを見つめた。
「あなた、もしかして、もとは本当に奴隷だったの?」
「はい、そうです」
「貧乏人には、この国は暮らしにくいわよね。何をするにも身分、身分。あたしは一応、平民って呼ばれてるけど、そんなの名ばかりよ。結局は、奴隷とほとんど変わらないわ。だから、あなたの気持ち、よく分かるわ。じゃあ、明日もこの時間にパンとキッシュ、それに、フルーツをお願いできるかしら?」
「分かりました。自分は、コパルといいます」
「ありがとうコパル。また、明日ね」
カトリーヌは言うと、崩れそうな階段を慣れた様子で駆け上がっていった。
(・・・・・・・・間違いない。あのシルクのハンカチは、ジョージ様のもの。あのカトリーヌという女性のことをローズお嬢様に報告しなくては・・・・・・・・)
コパルは考えながら、近くにあった樽に腰掛け、干しナツメヤシを口に入れた。大きなタネを何とか取り出しながら、慌てて動いてカトリーヌに疑われるようなことがないように、暫く時間をつぶしてから、表通りの様子を伺い、あの男がいないのを確認すると急いで裏町を離れた。
考えてみれば、奥様が大枚叩いて雇ったジョージ様捜索の探偵達はジョージ様の顔すら知らない。使用人達の話では、随分威勢の良いことを言って帰って行ったらしいが、世話をしていたコパルが奴隷だと分かると、話しすら聞かずに野良犬か押し売りを追い払う様な手振りでコパルを追い払って屋敷から出ていったが、未だに芳しい報告一つ持って帰ってきたことはない。
コパルはため息をつきながら、アイリーンが一緒なら絶対に通らない更に風紀の悪い道を抜けて表通りにでると、辻馬車を拾って侯爵邸へと戻った。
☆☆☆
アイリーンは一緒に探したくて、いても立ってもいられない気持ちを伝えたが、コパルは昨日の軍人が気になるからと、アイリーンを置いて出かけていった。
コパルは裏町に着くと、いろいろな店を覗いて歩いた。見るからに、良いところに勤めているページボーイ姿のコパルは、以前のように店から叩き出されることはなく、所々で店の物を一つ二つ買いもとめ、次へと移動した。
昼の時間が近くなって人通りが増える頃になると例の軍人が人待ち顔で現れてあちこちのビストロやカフェを覗く姿が目に入ったが、食事をとる事はなく、何度も道を行ったり来たりし、明らかに誰かを探している風だった。お昼の食事時間が終わる頃になると、何処へかはわからなかったが、男はスッと姿を消した。
そして、また、お茶の時間になると男は姿を現して同じことを繰り返しては消えていった。
軍人と顔を合わせないようにするため、逃げるように治安の悪い方へと向かってしまったコパルは、バラック街の階段を下りてきた娘に正面衝突してしまった。
「あら、あなた・・・・・・」
娘はコパルの事を知っているのか、笑顔で言った。
「昨日は、奴隷のような姿だったのに、今日は立派なページボーイ姿なのね。ほら、最近よくうろついている、あの危なそうな男にぶつかってお姉さんに謝って貰っていたわよね」
娘の言葉に、ああ、あれを見られていたのかと、コパルは少し安心した。
「もしかして、帰り道が分からないの?」
娘はとても親切だった。
「いえ、あの男に会いたくなくて隠れているだけです」
コパルが答えると、娘は大きなため息をついた。
「またあの男、ウロウロしているの? 本当を言うとね、私も逢いたく無くて時間をつぶしているのよ」
娘は言うと、今にも崩れそうに見える石段の端に腰を下ろした。
「あなた、いい匂いがするわね?」
娘は鼻をクンクンとさせて言った。
「え、あ、はい。キッシュを一つと、パンを幾つか。あと、甘味を少々買い求めましたので」
コパルは店を物色しながら買い求めた品を羅列した。
「ねえ、そのパンとキッシュ譲ってくれないかしら? 弟の具合が悪くて、出来たら買い物に行かないですませたいのよ。それに、早朝からの力仕事を終えて帰ってきて、一休みして買い物に出ようとすると、あの男がいつもいて辟易してるのよ」
娘に言われるまま、コパルはポケットからパンを取り出し、手に持っていたまだ温かいキッシュの入った袋を娘に手渡した。
「これで足りるかしら?」
娘の出した銅貨では足りない物だったが、コパルは食べる予定もなく買った物なので、快く娘に食べ物を譲った。
「ありがとう!」
パンとキッキュをしまい、踵を返して階段を上がろうとする娘の籠に縛られたハンカチにコパルの目が釘付けになった。
「お姉さん、名前、教えてくれませんか?」
コパルの言葉に娘は立ち止まると振り返った。
「ごめんなさい、名乗ってなかったわね。私はカトリーヌ。表通りのパン屋で働いてるの」
カトリーヌは笑顔で言った。
「よろしければ、明日も、キッシュとパンをお届けしましょうか? なんなら、野菜とかも」
コパルの言葉に、カトリーヌはコパルの事を見つめた。
「自分の姉弟は、皆病気で亡くなり、自分は今の姉に拾ってもらったんです。だから、病気の弟さんのそばを離れたくない気持ちは、とてもよく分かります」
コパルが言うと、カトリーヌはコパルのことを見つめた。
「あなた、もしかして、もとは本当に奴隷だったの?」
「はい、そうです」
「貧乏人には、この国は暮らしにくいわよね。何をするにも身分、身分。あたしは一応、平民って呼ばれてるけど、そんなの名ばかりよ。結局は、奴隷とほとんど変わらないわ。だから、あなたの気持ち、よく分かるわ。じゃあ、明日もこの時間にパンとキッシュ、それに、フルーツをお願いできるかしら?」
「分かりました。自分は、コパルといいます」
「ありがとうコパル。また、明日ね」
カトリーヌは言うと、崩れそうな階段を慣れた様子で駆け上がっていった。
(・・・・・・・・間違いない。あのシルクのハンカチは、ジョージ様のもの。あのカトリーヌという女性のことをローズお嬢様に報告しなくては・・・・・・・・)
コパルは考えながら、近くにあった樽に腰掛け、干しナツメヤシを口に入れた。大きなタネを何とか取り出しながら、慌てて動いてカトリーヌに疑われるようなことがないように、暫く時間をつぶしてから、表通りの様子を伺い、あの男がいないのを確認すると急いで裏町を離れた。
考えてみれば、奥様が大枚叩いて雇ったジョージ様捜索の探偵達はジョージ様の顔すら知らない。使用人達の話では、随分威勢の良いことを言って帰って行ったらしいが、世話をしていたコパルが奴隷だと分かると、話しすら聞かずに野良犬か押し売りを追い払う様な手振りでコパルを追い払って屋敷から出ていったが、未だに芳しい報告一つ持って帰ってきたことはない。
コパルはため息をつきながら、アイリーンが一緒なら絶対に通らない更に風紀の悪い道を抜けて表通りにでると、辻馬車を拾って侯爵邸へと戻った。
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