鳥がとまるように、器用に枝に身を置いているカルヴァドスが、ひらりと身を翻すと、アイリーンの部屋の床に着地した。
「すまない、姫さん。こんな遅くに・・・・・・」
カルヴァドスの、その身綺麗な姿はエクソシアで過ごした時を思い出させた。
「どうされたのです? 明日は、出航でしょう?」
アイリーンは驚いて問いかけた。
「出航は一日遅らせた。ちょっと、姫さんに大切な話があって・・・・・・」
カルヴァドスは言いながら廊下の方に注意を払った。
「大切な話ですか?」
思い当たる事がなかったのアイリーンは首を傾げた。
「ああ。かなり、大切な話なんだ」
カルヴァドスの言葉に、アイリーンはカルヴァドスにベッドに腰掛けるように促し、自分も隣に腰を下ろした。
「国に帰ったら、パレマキリアに出征することになった」
「そんな!」
驚きの声を上げるアイリーンの口をカルヴァドスが慌てて塞いだ。
「これは、まだ機密事項。外に漏れたら困るんだ。エクソシア帝国としては、六ヶ国同盟からのデロス不可侵の要請を無視し続けたパレマキリアに対して、報復として戦争を仕掛けることになった」
「そんな。デロスは、戦など望んでおりません」
アイリーンの気持ちはカルヴァドスには分かっていた。
「エクソシアとしては、どうしても、デロスの庇護者という立場が欲しい」
カルヴァドスはゆっくりと、説明するように言った。
「では、姫様は、エクソシア皇帝に嫁がれることになるのですね」
アイリーンは悲しそうに呟いた。
「そこなんだ。アイリ、アイリは今でも俺を愛してくれているか?」
カルヴァドスの問いに、アイリーンは目をそらした。
「アイリ、頼むから、教えてくれ。アイリの心は、まだ、俺の物か?」
心と問われ、アイリーンは頷いた。
「誰に嫁いだとしても、私の心はカルヴァドスさんの物です。そうでなければ、こんな夜遅くにカルヴァドスさんを部屋に入れたりはしません」
アイリーンは恥じらうように言った。
万が一、叔母のキャスリーンに見つかったら、ウィリアム駆け落ちの続編、アイリーン駆け落ちの妄想なとりつかれ、きっとキャスリーンは寝込んでしまうだろう。
「良かった。そうしたら、俺の言葉をしっかり聞いて欲しい」
カルヴァドスの言葉に、アイリーンは無言で頷いた。
「エクソシア皇帝から嫁ぐようにと言われたら、暫くエクソシアに滞在してから決めたいと言って、いきなり後宮に入るのを承諾するのは止めてくれ。それと、もし皇帝に心まで差し出すように言われたら、愛する男が居るから、心はその男の物だと、皇帝に嫁いでも、皇帝が手に出来るのは、アイリの体だけであって心ではないと、そうハッキリ言って欲しい」
「ですが、デロスはエクソシア皇帝の庇護を受ける身。その様なことを申し上げて、皇帝の逆鱗に触れる訳には参りません・・・・・・」
アイリーンは、自分が侍女だと言うことを忘れて答えた。
「エクソシアは、絶対にデロスの庇護者の地位を失いたくない。だから、例えもし、姫に婚姻を断られたとしても、デロスの庇護者になれるなら文句は言わない。多少、皇帝はぐずぐず嫌味を言うかもしれないが、耳を課さなくていい。それに、皇帝には山ほど息子が居る。アイリと歳の合う息子も何人か居るから。何も、アイリの父上と歳の変わらない皇帝にアイリが嫁ぐ必要はない。だから、俺のことを信じて、俺の言葉を聞いてくれ。そして、約束してくれ。絶対に、二言返事で後宮に入ることを承諾しないと。後宮の外ならば、俺も逢いに行かれるし、アイリにその時々に合った助言が出来る。約束してくれるか?」
カルヴァドスに見つめられ、アイリーンはカルヴァドスが愛しくて、その抱き締めて貰いたいと思った。
「わかりました。そのようなお話を皇帝陛下とする機会があるかどうかはわかりませんが、機会があればお伝えします」
「アイリ、これはアイリが考えているよりも、何よりも大切なことなんだ。皇帝は気位が高く、他の男を愛していると公言するような女性を妻には迎えたがらない。確かに、臣下の妻を召し上げた事はあるが、あれは話しでは相手の気持ちが陛下に乗り替わっていたからだと聞く。だから、心は捧げられないと言うことで、俺がアイリに求婚する機会を作れるかもしれないんだ。エクソシアの公爵ならば、皇帝の血脈、デロスの庇護者となるため、エクソシアの皇帝の血脈にデロスの姫が嫁ぐのは当然ともいえる事で、その相手が公邸でなくてはいけないという決りはない。皇太子や公爵に嫁いだとしても、決しておかしな事じゃない。だから、絶対に忘れないでくれ。アイリ、心から愛している。俺の命はアイリのものだ」
カルヴァドスは、抱き締めたいという思いを必死に堪えた。
「アイリ、戦に出向く俺に、祝福を与えてくれないか?」
カルヴァドスの言葉に、アイリーンは立ち上がると、カルヴァドスの向かいに跪くと、女神への祈りの言葉を捧げた後、ゆつくりと立ち上がってカルヴァドスの額に口付けした。
「ありがとう、姫さん。これで千人力だぜ!」
カルヴァドスは立ち上がると、すぐに部屋から出ていこうとした。
「待って下さい」
アイリーンは呼び止めると、ラフカディオの毛をカルヴァドスに手渡した。
「これは?」
カルヴァドスは不思議そうに毛の束を見つめた。
「イエロス・トポスから贈られた、聖なる銀色の狼の毛です。きっと、カルヴァドスさんを護ってくれるでしょう。どうか、ご無事で・・・・・・」
「そう言う時は、ご武運をって送り出してくれるのがエクソシア式だ」
「わかりました。どうか、ご無事で。ご武運を・・・・・・」
アイリーンは今にも泣いてしまいそうだったが、必死に涙を堪えた。
「ありがとう、姫さん。誰よりも愛してる。この想いは、海の女神に誓ったとおり、俺が死ぬまで消えることはない」
カルヴァドスの言葉に、アイリーンは思わずカルヴァドスの胸に飛び込んだ。
「姫さん・・・・・・」
突然のことに、カルヴァドスが困惑しながらアイリーンを抱きしめた。
「どうか、ご無事で。約束してください、怪我をしないと。私の心は、永遠にあなたのものです。だから、必ず元気で戻ってきてください」
感情のこもったアイリの声は、夜の屋敷に響きそうに大きかった。
「アイリ、もう行くよ。誰かに見つかるとまずいから」
ゆっくりとアイリーンが体を離すと、カルヴァドスはひらりと窓から飛び出して木に飛び移った。
そして、一度アイリーンの方を振り向き、笑顔を見せると、そのまま夜の闇に消えていった。
アイリーンは窓を閉め、カーテンを閉めると、カルヴァドスの温もりを忘れぬように心に焼き付けた。
「すまない、姫さん。こんな遅くに・・・・・・」
カルヴァドスの、その身綺麗な姿はエクソシアで過ごした時を思い出させた。
「どうされたのです? 明日は、出航でしょう?」
アイリーンは驚いて問いかけた。
「出航は一日遅らせた。ちょっと、姫さんに大切な話があって・・・・・・」
カルヴァドスは言いながら廊下の方に注意を払った。
「大切な話ですか?」
思い当たる事がなかったのアイリーンは首を傾げた。
「ああ。かなり、大切な話なんだ」
カルヴァドスの言葉に、アイリーンはカルヴァドスにベッドに腰掛けるように促し、自分も隣に腰を下ろした。
「国に帰ったら、パレマキリアに出征することになった」
「そんな!」
驚きの声を上げるアイリーンの口をカルヴァドスが慌てて塞いだ。
「これは、まだ機密事項。外に漏れたら困るんだ。エクソシア帝国としては、六ヶ国同盟からのデロス不可侵の要請を無視し続けたパレマキリアに対して、報復として戦争を仕掛けることになった」
「そんな。デロスは、戦など望んでおりません」
アイリーンの気持ちはカルヴァドスには分かっていた。
「エクソシアとしては、どうしても、デロスの庇護者という立場が欲しい」
カルヴァドスはゆっくりと、説明するように言った。
「では、姫様は、エクソシア皇帝に嫁がれることになるのですね」
アイリーンは悲しそうに呟いた。
「そこなんだ。アイリ、アイリは今でも俺を愛してくれているか?」
カルヴァドスの問いに、アイリーンは目をそらした。
「アイリ、頼むから、教えてくれ。アイリの心は、まだ、俺の物か?」
心と問われ、アイリーンは頷いた。
「誰に嫁いだとしても、私の心はカルヴァドスさんの物です。そうでなければ、こんな夜遅くにカルヴァドスさんを部屋に入れたりはしません」
アイリーンは恥じらうように言った。
万が一、叔母のキャスリーンに見つかったら、ウィリアム駆け落ちの続編、アイリーン駆け落ちの妄想なとりつかれ、きっとキャスリーンは寝込んでしまうだろう。
「良かった。そうしたら、俺の言葉をしっかり聞いて欲しい」
カルヴァドスの言葉に、アイリーンは無言で頷いた。
「エクソシア皇帝から嫁ぐようにと言われたら、暫くエクソシアに滞在してから決めたいと言って、いきなり後宮に入るのを承諾するのは止めてくれ。それと、もし皇帝に心まで差し出すように言われたら、愛する男が居るから、心はその男の物だと、皇帝に嫁いでも、皇帝が手に出来るのは、アイリの体だけであって心ではないと、そうハッキリ言って欲しい」
「ですが、デロスはエクソシア皇帝の庇護を受ける身。その様なことを申し上げて、皇帝の逆鱗に触れる訳には参りません・・・・・・」
アイリーンは、自分が侍女だと言うことを忘れて答えた。
「エクソシアは、絶対にデロスの庇護者の地位を失いたくない。だから、例えもし、姫に婚姻を断られたとしても、デロスの庇護者になれるなら文句は言わない。多少、皇帝はぐずぐず嫌味を言うかもしれないが、耳を課さなくていい。それに、皇帝には山ほど息子が居る。アイリと歳の合う息子も何人か居るから。何も、アイリの父上と歳の変わらない皇帝にアイリが嫁ぐ必要はない。だから、俺のことを信じて、俺の言葉を聞いてくれ。そして、約束してくれ。絶対に、二言返事で後宮に入ることを承諾しないと。後宮の外ならば、俺も逢いに行かれるし、アイリにその時々に合った助言が出来る。約束してくれるか?」
カルヴァドスに見つめられ、アイリーンはカルヴァドスが愛しくて、その抱き締めて貰いたいと思った。
「わかりました。そのようなお話を皇帝陛下とする機会があるかどうかはわかりませんが、機会があればお伝えします」
「アイリ、これはアイリが考えているよりも、何よりも大切なことなんだ。皇帝は気位が高く、他の男を愛していると公言するような女性を妻には迎えたがらない。確かに、臣下の妻を召し上げた事はあるが、あれは話しでは相手の気持ちが陛下に乗り替わっていたからだと聞く。だから、心は捧げられないと言うことで、俺がアイリに求婚する機会を作れるかもしれないんだ。エクソシアの公爵ならば、皇帝の血脈、デロスの庇護者となるため、エクソシアの皇帝の血脈にデロスの姫が嫁ぐのは当然ともいえる事で、その相手が公邸でなくてはいけないという決りはない。皇太子や公爵に嫁いだとしても、決しておかしな事じゃない。だから、絶対に忘れないでくれ。アイリ、心から愛している。俺の命はアイリのものだ」
カルヴァドスは、抱き締めたいという思いを必死に堪えた。
「アイリ、戦に出向く俺に、祝福を与えてくれないか?」
カルヴァドスの言葉に、アイリーンは立ち上がると、カルヴァドスの向かいに跪くと、女神への祈りの言葉を捧げた後、ゆつくりと立ち上がってカルヴァドスの額に口付けした。
「ありがとう、姫さん。これで千人力だぜ!」
カルヴァドスは立ち上がると、すぐに部屋から出ていこうとした。
「待って下さい」
アイリーンは呼び止めると、ラフカディオの毛をカルヴァドスに手渡した。
「これは?」
カルヴァドスは不思議そうに毛の束を見つめた。
「イエロス・トポスから贈られた、聖なる銀色の狼の毛です。きっと、カルヴァドスさんを護ってくれるでしょう。どうか、ご無事で・・・・・・」
「そう言う時は、ご武運をって送り出してくれるのがエクソシア式だ」
「わかりました。どうか、ご無事で。ご武運を・・・・・・」
アイリーンは今にも泣いてしまいそうだったが、必死に涙を堪えた。
「ありがとう、姫さん。誰よりも愛してる。この想いは、海の女神に誓ったとおり、俺が死ぬまで消えることはない」
カルヴァドスの言葉に、アイリーンは思わずカルヴァドスの胸に飛び込んだ。
「姫さん・・・・・・」
突然のことに、カルヴァドスが困惑しながらアイリーンを抱きしめた。
「どうか、ご無事で。約束してください、怪我をしないと。私の心は、永遠にあなたのものです。だから、必ず元気で戻ってきてください」
感情のこもったアイリの声は、夜の屋敷に響きそうに大きかった。
「アイリ、もう行くよ。誰かに見つかるとまずいから」
ゆっくりとアイリーンが体を離すと、カルヴァドスはひらりと窓から飛び出して木に飛び移った。
そして、一度アイリーンの方を振り向き、笑顔を見せると、そのまま夜の闇に消えていった。
アイリーンは窓を閉め、カーテンを閉めると、カルヴァドスの温もりを忘れぬように心に焼き付けた。


