お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 王都にタウンハウスを構えていない地方の貴族達が多く宿泊する豪華ホテルの前に馬車が横付けされると、アンドレは有無を言わさずカルヴァドスを連れて馬車を降り、フロントに預けずにおいた鍵で客室の扉を開けると、まるで荷物を運ぶかのようにカルヴァドスを奥の部屋に放り込んだ。
「アンドレ、まず風呂に入りたい」
 懐から手紙を出しながらカルヴァドスが言うと、アンドレは一礼して姿を消した。

 貴族向けの部屋なので、大きな部屋のなかに主の部屋と使用人の部屋が別々に用意され、同じ部屋の中で住み分ける仕様になっていた。
タウンハウスのようにフロアーが別にしたり、本宅のように別棟に使用人が住むようにしたりするのとは異なり、どうしても距離がちかくなるので、こういう場合、同じ部屋に滞在するのが許されるのは専属のメイドや従者だけで、他の使用人は使用人用の別棟の部屋から日中だけ通いでやってくるのが普通だった。

 この場合、アンドレは副官とは言え使用人。今、カルヴァドスが放り込まれた書斎から呼び鈴を引けば、ホテルではなくアンドレの居る使用人の部屋にベルが響き、アンドレが用事を聞いて、更にホテルの人間に指示を出すという流れになる。
 とりあえず、見た目をごまかすために袖を通した上着を脱ぎ、シャツのボタンを外すと、見るだけで威圧的な父からの手紙を手に取った。
 カルヴァドスが気に入らないのは、父からの手紙の封蝋を見るだけでアンドレか神経質になり、まるで父の前にこのまま引きずり出されるのではないかというような激しいプレッシャーを感じるからだった。

 備え付けのデスクの抽斗には、レターオープナーが用意されていた。
 これがアンドレの気遣いなのか、ホテルの心遣いなのかはカルヴァドスには分からなかった。しかし、いくら父からの手紙とはいえ、さすがに封筒を引きちぎって読むわけにはいかないので、レターオープナーが用意されていたのは、ある意味幸いだった。何しろ、なければアンドレを呼んでレターオープナーを用意させなくてはいけないからだ。
 もう一度、大きく深呼吸すると、カルヴァドスは手紙の封を切った。