「ありがとうございます、奥様」
姪とはいえ、祖国の王女に頭を下げられるのはキャスリーンとしては複雑な心境だったし、王となるべく育てられたウィリアムとは違い、姫巫女だったアイリーンはウィリアムに輪をかけて腰が低い。そして、お礼を言われた言葉の意味が、自分のことではなく、コパルに表玄関を使わせる許可を出したことだとキャスリーンには分かるから、ますますキャスリーンにとっては居心地が悪かった。
「当然のことです」
キャスリーンは言うと、敢えてどこに行くのかも尋ねずにアイリーンとコパルを外出させた。
行き先は、コパルがウィリアムを尾行して行った歓楽街に違いなく、そうだとしたら陽が暮れる前の明るい時間に行かせる方が安全だと考えてのことだった。
そこで、はっとキャスリーンは大切なことに気付いた。
「お待ちなさい、ローズ」
慌てて呼び止め、アイリーンだけをライブラリーに連れ込むと、念のためアイリーンの格好を確認した。
コパルの進言があったのは間違いなく、アイリーンはタリアレーナでは絶対に貴族の娘には見えないドレスを着て、目立つストロベリーブロンドの髪はスカーフでしっかりと隠していた。
「財布の中を見せなさい」
キャスリーンの言葉に、アイリーンは首をひねりながら、手持ちのハンドバッグを開けて見せた。
キャスリーンの心配はまさに的中していた。
日頃、お金を持つ習慣のないアイリーンは財布を持っておらず、ハンドバッグの中に寄りにもよってデロス硬貨を無造作に入れていたのだ。
キャスリーンは一瞬、激しい目眩に襲われた。それは、ハンドバッグの中に無造作にデロス金貨と銀貨、それに銅貨が放り込まれていたからだ。
ウィリアムがやってきた当初、デロスの貨幣価値とタリアレーナの貨幣価値について教えを乞うたのに対して、アイリーンは一言も問わなかった事に、逆に旅の途中で学習してきたのだろうと思っていたキャスリーンは、コパルを供につけるとはいえ、アイリーンを一人で屋敷から出すことがとてつもなく不安になったからでもあった。
「大丈夫ですわ、叔母様。エクソシアで、デロスのお金はタリアレーナでも使えると習いましたから」
笑顔で言うアイリーンは、未だに自分がカルヴァドスに渡した銀貨が多すぎたことにすら気付いていなかった。
「あなたにデロスのお金が使えると教えた人のお教えは片手落ちです。デロスの硬貨と、六ヶ国の硬貨の価値が等価でないことをあなたにちゃんと教えていないなんて」
キャスリーンは溜め息をつきながらいった。
「叔母様、それなら大丈夫です。ちゃんと多めに払う様にしていますから」
アイリーンはそのまま肖像画にして飾っておきたくなるくらい、素直で優しく美しい笑みを浮かべていった。
『逆です!』と、キャスリーンは今にも叫び出しそうだった。
外交官として、国々を旅するシュナイダー侯爵家ではデロス硬貨は珍しくない。
六ヶ国同盟国内と聖域と言われるイエロス・トポス、デロスで幅広く使え、価値の高いデロス硬貨は旅の重荷を減らしたい侯爵が旅に出る度に都合して持って行くし、息子のライオネルがエイゼンシュタインに留学するときに持たせたのもデロス硬貨だった。
その時は、ウィリアムが持ってきたデロス硬貨をタリアレーナ硬貨に交換し、ライオネルがそれを持って出発するという方法をとったから簡単だったが、デロスから離れたタリアレーナでは、なかなかデロス硬貨をまとまった量用意するのは難しい。だから、もしデロス硬貨をタリアレーナで使えば、それは『私はデロスから来た旅行者です』とふれて回ることと同意義になる。
姪とはいえ、祖国の王女に頭を下げられるのはキャスリーンとしては複雑な心境だったし、王となるべく育てられたウィリアムとは違い、姫巫女だったアイリーンはウィリアムに輪をかけて腰が低い。そして、お礼を言われた言葉の意味が、自分のことではなく、コパルに表玄関を使わせる許可を出したことだとキャスリーンには分かるから、ますますキャスリーンにとっては居心地が悪かった。
「当然のことです」
キャスリーンは言うと、敢えてどこに行くのかも尋ねずにアイリーンとコパルを外出させた。
行き先は、コパルがウィリアムを尾行して行った歓楽街に違いなく、そうだとしたら陽が暮れる前の明るい時間に行かせる方が安全だと考えてのことだった。
そこで、はっとキャスリーンは大切なことに気付いた。
「お待ちなさい、ローズ」
慌てて呼び止め、アイリーンだけをライブラリーに連れ込むと、念のためアイリーンの格好を確認した。
コパルの進言があったのは間違いなく、アイリーンはタリアレーナでは絶対に貴族の娘には見えないドレスを着て、目立つストロベリーブロンドの髪はスカーフでしっかりと隠していた。
「財布の中を見せなさい」
キャスリーンの言葉に、アイリーンは首をひねりながら、手持ちのハンドバッグを開けて見せた。
キャスリーンの心配はまさに的中していた。
日頃、お金を持つ習慣のないアイリーンは財布を持っておらず、ハンドバッグの中に寄りにもよってデロス硬貨を無造作に入れていたのだ。
キャスリーンは一瞬、激しい目眩に襲われた。それは、ハンドバッグの中に無造作にデロス金貨と銀貨、それに銅貨が放り込まれていたからだ。
ウィリアムがやってきた当初、デロスの貨幣価値とタリアレーナの貨幣価値について教えを乞うたのに対して、アイリーンは一言も問わなかった事に、逆に旅の途中で学習してきたのだろうと思っていたキャスリーンは、コパルを供につけるとはいえ、アイリーンを一人で屋敷から出すことがとてつもなく不安になったからでもあった。
「大丈夫ですわ、叔母様。エクソシアで、デロスのお金はタリアレーナでも使えると習いましたから」
笑顔で言うアイリーンは、未だに自分がカルヴァドスに渡した銀貨が多すぎたことにすら気付いていなかった。
「あなたにデロスのお金が使えると教えた人のお教えは片手落ちです。デロスの硬貨と、六ヶ国の硬貨の価値が等価でないことをあなたにちゃんと教えていないなんて」
キャスリーンは溜め息をつきながらいった。
「叔母様、それなら大丈夫です。ちゃんと多めに払う様にしていますから」
アイリーンはそのまま肖像画にして飾っておきたくなるくらい、素直で優しく美しい笑みを浮かべていった。
『逆です!』と、キャスリーンは今にも叫び出しそうだった。
外交官として、国々を旅するシュナイダー侯爵家ではデロス硬貨は珍しくない。
六ヶ国同盟国内と聖域と言われるイエロス・トポス、デロスで幅広く使え、価値の高いデロス硬貨は旅の重荷を減らしたい侯爵が旅に出る度に都合して持って行くし、息子のライオネルがエイゼンシュタインに留学するときに持たせたのもデロス硬貨だった。
その時は、ウィリアムが持ってきたデロス硬貨をタリアレーナ硬貨に交換し、ライオネルがそれを持って出発するという方法をとったから簡単だったが、デロスから離れたタリアレーナでは、なかなかデロス硬貨をまとまった量用意するのは難しい。だから、もしデロス硬貨をタリアレーナで使えば、それは『私はデロスから来た旅行者です』とふれて回ることと同意義になる。



