コパルに尋ねたいことは沢山あった。
見かけた男というのがどんな男なのか、それがカルヴァドスなのか、それとも、アンドレやドクターのようにアイリーンの知っている人間なのか、それとも、パレマキリアからの密偵なのか。しかし、どうやって訊いたとしても、自分がエイゼンシュタインではなく、パレマキリアと緊張関係のある国から来たとコパルに看破されてしまいそうで、アイリーンは言葉に詰まってしまうばかりだった。
「・・・・・・コパル、その、お兄様が戻らなくなる前に、お屋敷の周りをうろついて居たというのは、どんな人が教えて貰える?」
やっとの事で言葉を見つけたアイリーンが問いかけると、コパルは座りなれない椅子に座るのを憚るように話し始めた。
「多分、軍人だったと思います。タリアレーナの軍人の方が履くのと同じ厚い皮の黒い編み上げブーツを履いていました。でも、このお屋敷の外には、よくうろつく奴が居るので、気にしなくて良いと奥様が仰りました。彼らの目的は、物乞いでも、奥様や旦那様に危害を加えるつもりでもないのだからと・・・・・・」
叔母の言葉の意味をアイリーンは叔父の仕事柄、外交に関わる要人を他国がスパイしようとすることがあるからという意味だと受け取った。
「ジョージ様がお戻りにならなくなってからも、あの男は、しばらくは屋敷の周りをうろついていましたが、一月くらい経つ頃から姿を見せなくなりました」
(・・・・・・・・一月も屋敷を見張っていたということは、お兄様はパレマキリアの手には落ちていないのだわ。でも、叔母様や叔父様にご迷惑をかけられないから、戻ってこられない? だとしたら、連絡くらいは寄越すはず・・・・・・・・)
アイリーンは事の顛末を考えながらコパルの言葉に耳を傾けた。
「そう言えば、メイド見習いの一人が、このお屋敷に怪我人はいないかと尋ねられたと不思議そうに言ってました」
『怪我人』という言葉にアイリーンは血の気が引くのを感じた。
(・・・・・・・・パレマキリアの刺客はお兄様に怪我を負わせたんだわ。お兄様は、怪我のせいでどこかに身を隠し、屋敷に戻っていない。だとしたら、どこに? あの手紙の女性なら心当たりがあるかも知れない。だって、あのカトリーヌという女性は、お兄様の身が危険だと気付いていたもの。でも、来るなと言われて、行くのを止めるお兄様じゃないわ・・・・・・・・)
「コパル、お兄様を追いかけていった場所に連れて行って貰える?」
アイリーンは決心するとコパルに言った。
「あの、私は構いませんが、やはり、奥様がお許しにならないと思います。あそこは、ローズお嬢様のいらっしゃるような場所ではございませんから」
コパルは不安げに呟いた。
「コパル、大丈夫よ。ここまで来る間も色々あったけれど、頑張って来たんですもの!」
さすがにコパル相手でも、男ばかりの船に無理矢理乗せて貰った挙げ句、カルヴァドスと同衾していたなどと口にすることは出来なかったが、それでも酒場を何軒も周り、柄の悪い船乗りたちとも丁々発止のやり取りをして、何とかここまで来たのだという自信をアイリーンは胸に秘めながら言った。
「では、その、出来るだけ町娘のような、貴族様に見えないドレスをお召しになってください。それから、歩きやすい靴でお願いいたします。行きは途中までお屋敷の馬車で行かれますが、帰りは、歩きになるかも知れません。馬車が捕まらないこともありますので、その場合は歩いて帰ってこなくてはなりません」
コパルは言うと、椅子から降りて立ち上がった。
「私は、奥様にローズお嬢様がお出かけになることをご報告し、馬車の準備をしてお待ちしております」
「わかったわ。じゃあ、すぐに着替えて下りるわ」
アイリーンは笑顔でコパルを見送ると、船で着ていた町娘のドレスにさっと着替えた。
目立つストロベリーブロンドの髪は兄のウィリアムに見つけて貰う目印にはなるが、両刃の刃でパレマキリアの軍人に見つかる可能性も少なくはなかったので、仕方なく結い上げてからスカーフでまとめ、髪の毛が見えないようにすることにした。
せっかくカルヴァドスがタリアレーナで流行っているからと買ってくれたパラソルは、どう見ても貴族のお嬢様仕様なので、持って行くことは出来ないとアイリーンは諦めた。とにかく、ここでもし自分の身分がパレマキアの人間に知れるようなことになれば、取り返しの着かないことになってしまうから、アイリーンはただただ祈るような思いで、鏡に映る町娘にしか見えない姿の自分の輝くストロベリーブロンドの髪が見えないように、改めてスカーフでしっかりと押さえつけるようにしたてまとめた。
見かけた男というのがどんな男なのか、それがカルヴァドスなのか、それとも、アンドレやドクターのようにアイリーンの知っている人間なのか、それとも、パレマキリアからの密偵なのか。しかし、どうやって訊いたとしても、自分がエイゼンシュタインではなく、パレマキリアと緊張関係のある国から来たとコパルに看破されてしまいそうで、アイリーンは言葉に詰まってしまうばかりだった。
「・・・・・・コパル、その、お兄様が戻らなくなる前に、お屋敷の周りをうろついて居たというのは、どんな人が教えて貰える?」
やっとの事で言葉を見つけたアイリーンが問いかけると、コパルは座りなれない椅子に座るのを憚るように話し始めた。
「多分、軍人だったと思います。タリアレーナの軍人の方が履くのと同じ厚い皮の黒い編み上げブーツを履いていました。でも、このお屋敷の外には、よくうろつく奴が居るので、気にしなくて良いと奥様が仰りました。彼らの目的は、物乞いでも、奥様や旦那様に危害を加えるつもりでもないのだからと・・・・・・」
叔母の言葉の意味をアイリーンは叔父の仕事柄、外交に関わる要人を他国がスパイしようとすることがあるからという意味だと受け取った。
「ジョージ様がお戻りにならなくなってからも、あの男は、しばらくは屋敷の周りをうろついていましたが、一月くらい経つ頃から姿を見せなくなりました」
(・・・・・・・・一月も屋敷を見張っていたということは、お兄様はパレマキリアの手には落ちていないのだわ。でも、叔母様や叔父様にご迷惑をかけられないから、戻ってこられない? だとしたら、連絡くらいは寄越すはず・・・・・・・・)
アイリーンは事の顛末を考えながらコパルの言葉に耳を傾けた。
「そう言えば、メイド見習いの一人が、このお屋敷に怪我人はいないかと尋ねられたと不思議そうに言ってました」
『怪我人』という言葉にアイリーンは血の気が引くのを感じた。
(・・・・・・・・パレマキリアの刺客はお兄様に怪我を負わせたんだわ。お兄様は、怪我のせいでどこかに身を隠し、屋敷に戻っていない。だとしたら、どこに? あの手紙の女性なら心当たりがあるかも知れない。だって、あのカトリーヌという女性は、お兄様の身が危険だと気付いていたもの。でも、来るなと言われて、行くのを止めるお兄様じゃないわ・・・・・・・・)
「コパル、お兄様を追いかけていった場所に連れて行って貰える?」
アイリーンは決心するとコパルに言った。
「あの、私は構いませんが、やはり、奥様がお許しにならないと思います。あそこは、ローズお嬢様のいらっしゃるような場所ではございませんから」
コパルは不安げに呟いた。
「コパル、大丈夫よ。ここまで来る間も色々あったけれど、頑張って来たんですもの!」
さすがにコパル相手でも、男ばかりの船に無理矢理乗せて貰った挙げ句、カルヴァドスと同衾していたなどと口にすることは出来なかったが、それでも酒場を何軒も周り、柄の悪い船乗りたちとも丁々発止のやり取りをして、何とかここまで来たのだという自信をアイリーンは胸に秘めながら言った。
「では、その、出来るだけ町娘のような、貴族様に見えないドレスをお召しになってください。それから、歩きやすい靴でお願いいたします。行きは途中までお屋敷の馬車で行かれますが、帰りは、歩きになるかも知れません。馬車が捕まらないこともありますので、その場合は歩いて帰ってこなくてはなりません」
コパルは言うと、椅子から降りて立ち上がった。
「私は、奥様にローズお嬢様がお出かけになることをご報告し、馬車の準備をしてお待ちしております」
「わかったわ。じゃあ、すぐに着替えて下りるわ」
アイリーンは笑顔でコパルを見送ると、船で着ていた町娘のドレスにさっと着替えた。
目立つストロベリーブロンドの髪は兄のウィリアムに見つけて貰う目印にはなるが、両刃の刃でパレマキリアの軍人に見つかる可能性も少なくはなかったので、仕方なく結い上げてからスカーフでまとめ、髪の毛が見えないようにすることにした。
せっかくカルヴァドスがタリアレーナで流行っているからと買ってくれたパラソルは、どう見ても貴族のお嬢様仕様なので、持って行くことは出来ないとアイリーンは諦めた。とにかく、ここでもし自分の身分がパレマキアの人間に知れるようなことになれば、取り返しの着かないことになってしまうから、アイリーンはただただ祈るような思いで、鏡に映る町娘にしか見えない姿の自分の輝くストロベリーブロンドの髪が見えないように、改めてスカーフでしっかりと押さえつけるようにしたてまとめた。



