お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

『親愛なるジョージ
 あなたのお申し出はとてもありがたく、言葉で表すことが出来ないほど感謝しています。
 ですが、あの男達は、最初に要求してきた父の残した借金を返済すると、今度は新しい借用証を持ち出し、さらにお金を要求してきたのです。
 せっかく、来期の学費まで工面して下さったのに・・・・・・。連中はキ期日までに残りの返済が出来ないのであれば、私に歓楽街で働くようにと要求して参りました。
 ジョージ、もう少し時間があれば、もっとお金を用立てることは可能だとおっしゃって下さいましたが、これ以上はビオラ奏者を目指す、しがない音楽院の学生である私には、お返しする当てもございません。ですから、どうか、もう私のことはお忘れになって下さい。
 卒業演奏会のために二人で作曲した曲は、あなたのお名前で発表して下さい。
 こうして志半ばで音楽を諦めなくてはならないのも、私の運命なのでしょう。
 卒業演奏会で、あの曲をあなたと共に演奏する事だけが私の最後の願いでした。ですが、これ以上のご迷惑をおかけしないためにも、私は音楽を諦めることに致します。
 どうか、あなたの素晴らしいヴァイオリンの音を世界の人々に・・・・・・。

カトリーヌ

追伸
 先日、街であなたに因縁をつけてきたパレマキリアの軍人を名乗る男に、偶然街で出逢いました。
 とても剣呑で物騒な様子に、あなたの身に危険が及ぶのではと心配になりました。
 どうか、この手紙をお読みになったら、二度と私のことを探したりなさらないで下さい。あの男は、あなたが私に逢いに来るものと、二日と開けずに店にやってきます。
 どうかご無事でお過ごし下さい』

 手紙を読み終わったアイリーンは、便箋を元あったように綺麗に折り、封筒に戻した。

(・・・・・・・・パレマキリアの軍人がお兄様の身元を疑っていた。だとしたら、私とダリウス殿下との結婚が決まった今、デロスを遠く離れたタリアレーナの地でお兄様を亡き者にすれば、いずれは私がデロスの女王とならなくてはならない。でも、パレマキリアの法律は王妃や王太子妃が他国の王位を継承することを認めていないから、夫であるダリウス殿下が自動的にデロスの国王となる。そのために、留学中のお兄様や病気でお加減の悪いお父様の命を狙うというの・・・・・・・・)

 そこまで考えたアイリーンは、国に残してきた父のことが急に心配になった。
 王宮の警護は誰よりも信頼の置けるラフカディオとアイゼンハイムに任せてある。そして、アルフレッドは命を懸けて父王を護ってくれると信じてはいる。しかし、ウィリアムの正体がタリアレーナの地で暴かれそうであったことを考えると、アイリーンは心配で胸がつぶれそうに苦しくなった。

(・・・・・・・・私が、恋にうつつを抜かしている間に、お兄様の命も、お父様の命も今までにないほど危険に晒されていたなんて・・・・・・・・)

 一瞬でも、カルヴァドスと結ばれることが出来たらと夢見たことが、あまつさえ、王女に生まれたことを悔やむような身勝手な事を考えていた自分が酷く薄情で情けなく思え、アイリーンは王女としての自覚のなさと、自分の甘えが民と国を軽んじるもので、王族として失格だと心の中で自分を責めた。