「ねえ、コパル。コパルの夢は何?」
アイリーンはコパルの事が知りたくてコパルに尋ねた。
「自分に夢はありません」
コパルは困ったように言った。
「ねえ、コパル。そこの椅子に座ったら? 立ちっぱなしは疲れるでしょう?」
「いえ、それは貴族の方がお座りになられる椅子でございます。自分のような者が座ったら、椅子が穢れてしまいます」
コパルの言葉にアイリーンは衝撃を受けた。
「ど、どういうこと? コパルが座ったら椅子が穢れるって?」
「ローズお嬢様は、ジョージ様と同じように驚かれるのですね」
コパルは懐かしむように微笑んだ。
「タリアレーナでは、身分の区別がとても厳しいので、私のような隣国からの流れ者は、奴隷扱いが殆どです。ですが私は偶然にも、お優しい奥様に拾っていただき、本当なら、日雇いのお仕事を戴けるだけでも光栄なのに、奥様は私を正式にお屋敷のフットマンとして雇ってくださいました。本来ならば季節ごとの報償とか、有給休暇など戴ける身分ではなしのに、お仕事を戴けるだけで光栄だというのに、お優しい奥様は、私をタリアレーナの方と同じように扱ってくださるのです。ですが、旦那様はやはり反対されておられ、自分のせいで奥様と旦那様が喧嘩をされていらっしゃると知り、お屋敷を去ろうと致しましたら、奥様が雨の中、傘もささずに私を探しにしてくださったのでございます」
コパルの話で、身分差別が思っていた以上に激しい事は理解できたアイリーンだったが、それが、なぜ椅子が穢れる事になるのか理解できなかった。
「でも、どうして椅子が穢れるの?」
「それは、自分が奴隷と同じ身分だからでございます」
コパルは平然と答えたが、奴隷貿易に反対し、奴隷貿易船を入港させない方針のデロスで生まれたアイリーンにとって、人を奴隷扱いして差別し、あまつさえ、本人の意志に反してお金で売り買いするような、そのような侮辱を与えることは絶対に許されないことで、もともと、列強六ヶ国が進行している神は、奴隷の存在を認めていない。
しかし、異なる神を信じる国から奴隷として流れ込んでくる者たち、奴隷という立場から逃げてくる者たち、それらに対してタリアレーナでは一切受け入れないという姿勢をとっており、それ故、存在を認めていない奴隷が実は国内で働いているという状況が現実になっているが、ある意味、タリアレーナの民ではないものは、透明人間と同じで、そこにしてもいないのと同じ、そういうものなのだと、アイリーンはタリアレーナの国政の厳しさを理解した。それだけに、キャスリーンが夫である侯爵と喧嘩をしてまでコパルを雇った理由はアイリーンにもよく理解できた。
一度侯爵邸の使用人となれば、例えタリアレーナの民でなくても侯爵家が発行する紹介状を持っていれば、下級貴族の屋敷であれば、コパルが奴隷だなどということなく、コパルを雇うはずだから、叔母のキャスリーンは精一杯自分の信念に従って戦ったに違いない。でも、コパルを人にすることはこの国ではできない。しかし、今のコパルはもう透明人間ではない。ちゃんと、侯爵家のフットマンなのだから。
かつて、奴隷貿易船を海賊と呼んで戦いを挑んでは、奴隷を開放し、国へ戻れるようにしたり、デロスで暮らせるようにしていたというデロス海軍総督だった祖父の血を叔母も引いているのだと、アイリーンは思わず微笑みを浮かべた。
アイリーンはコパルの事が知りたくてコパルに尋ねた。
「自分に夢はありません」
コパルは困ったように言った。
「ねえ、コパル。そこの椅子に座ったら? 立ちっぱなしは疲れるでしょう?」
「いえ、それは貴族の方がお座りになられる椅子でございます。自分のような者が座ったら、椅子が穢れてしまいます」
コパルの言葉にアイリーンは衝撃を受けた。
「ど、どういうこと? コパルが座ったら椅子が穢れるって?」
「ローズお嬢様は、ジョージ様と同じように驚かれるのですね」
コパルは懐かしむように微笑んだ。
「タリアレーナでは、身分の区別がとても厳しいので、私のような隣国からの流れ者は、奴隷扱いが殆どです。ですが私は偶然にも、お優しい奥様に拾っていただき、本当なら、日雇いのお仕事を戴けるだけでも光栄なのに、奥様は私を正式にお屋敷のフットマンとして雇ってくださいました。本来ならば季節ごとの報償とか、有給休暇など戴ける身分ではなしのに、お仕事を戴けるだけで光栄だというのに、お優しい奥様は、私をタリアレーナの方と同じように扱ってくださるのです。ですが、旦那様はやはり反対されておられ、自分のせいで奥様と旦那様が喧嘩をされていらっしゃると知り、お屋敷を去ろうと致しましたら、奥様が雨の中、傘もささずに私を探しにしてくださったのでございます」
コパルの話で、身分差別が思っていた以上に激しい事は理解できたアイリーンだったが、それが、なぜ椅子が穢れる事になるのか理解できなかった。
「でも、どうして椅子が穢れるの?」
「それは、自分が奴隷と同じ身分だからでございます」
コパルは平然と答えたが、奴隷貿易に反対し、奴隷貿易船を入港させない方針のデロスで生まれたアイリーンにとって、人を奴隷扱いして差別し、あまつさえ、本人の意志に反してお金で売り買いするような、そのような侮辱を与えることは絶対に許されないことで、もともと、列強六ヶ国が進行している神は、奴隷の存在を認めていない。
しかし、異なる神を信じる国から奴隷として流れ込んでくる者たち、奴隷という立場から逃げてくる者たち、それらに対してタリアレーナでは一切受け入れないという姿勢をとっており、それ故、存在を認めていない奴隷が実は国内で働いているという状況が現実になっているが、ある意味、タリアレーナの民ではないものは、透明人間と同じで、そこにしてもいないのと同じ、そういうものなのだと、アイリーンはタリアレーナの国政の厳しさを理解した。それだけに、キャスリーンが夫である侯爵と喧嘩をしてまでコパルを雇った理由はアイリーンにもよく理解できた。
一度侯爵邸の使用人となれば、例えタリアレーナの民でなくても侯爵家が発行する紹介状を持っていれば、下級貴族の屋敷であれば、コパルが奴隷だなどということなく、コパルを雇うはずだから、叔母のキャスリーンは精一杯自分の信念に従って戦ったに違いない。でも、コパルを人にすることはこの国ではできない。しかし、今のコパルはもう透明人間ではない。ちゃんと、侯爵家のフットマンなのだから。
かつて、奴隷貿易船を海賊と呼んで戦いを挑んでは、奴隷を開放し、国へ戻れるようにしたり、デロスで暮らせるようにしていたというデロス海軍総督だった祖父の血を叔母も引いているのだと、アイリーンは思わず微笑みを浮かべた。



