お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 カルヴァドスはギュッと拳を握りしめ、遠い侯爵家の屋敷にいるアイリーンの事を想った。

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 絶対に侯爵と顔を合わせないようにと叔母のキャスリーンに言われたアイリーンは、運ばれてきたタリアレーナ式の朝食を茫然と見つめた。

(・・・・・・・・知らなかった。タリアレーナの朝食って、コーヒーだけなんだ。パレマキリアがコーヒーと小さなパン一かけらだけだって言うのは知っていたけど。どうやってみんな、夜までおなかが減らずに頑張れるんだろう?・・・・・・・・)

 カップ一杯のコーヒーを飲み干し、ため息を付いていると玄関の方が騒がしくなるのが聞こえてきた。

(・・・・・・・・侯爵がお出かけされるのね。確か侯爵は外務大臣に任じられていらして、叔母様と出逢ったのも、大臣の秘書をしていた頃、お供でデロスにいらして叔母様と恋に落ちて、長距離恋愛の末、おじいさまの許可を取って結婚に至ったと、お兄様から聞いたことがあるわ・・・・・・・・)

 ロマンチックなことを考えていても、お腹の足しにはならず、ぐぅーっと情けない音を出すお腹を抱え、アイリーンは大の字というのがピッタリな格好でベッドに横になり、屋敷が静まりかえるのを待った。
 船の中でさえ飢えたことのなかったアイリーンが生まれて初めて経験するひもじさだった。
 こんな格好でベッドに横になっていたら、あっという間にアイゼンハイムとラフカディオが遊んでくれるものとベッドに飛び乗って遊びだし、気付いたローズマリーが目が零れ落ちそうに大きく目を見開いて小言を言うだろう。アイリーンが気を張っていないときの気配はすぐに二人に伝わるので、ラフカディオとアイゼンハイムはここぞとばかりにアイリーンに構ってくれとすり寄ってくるだろう。

(・・・・・・・・それにしても、コーヒー一杯。しかもブラックはきついわ。せめてミルクとお砂糖たっぷりなら何とか保つかもしれないけど。船でも朝食はガッツリだったし、デロスの朝食もパンと卵に紅茶が普通だから、足りないのは当たり前、文化の違いなんだから仕方ないわよね・・・・・・・・)