お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 広いエクソシア故に、結婚し、一緒に船に乗って暮らしても構わないなどという、破天荒な貴族の娘を探し出しているかもしれない。それを考えるとカルヴァドスの気持ちは暗く重くなっていった。

(・・・・・・・・また、顔を見たら、結婚しか言わないんだろうなぁ。ああ、いっそ姫さんを連れて行かれたら、この人が俺が一生添い遂げると決めた、ただ一人の女性ですと紹介できるのに。でも、今度は、父上が結婚の『け』の字を言う前に、俺のほうから結婚したい女性がいると切り出してやる。まあ、手紙で前振りをしてあるから、相手が誰かはすぐにわかるだろうが、押し付けられる結婚をする気がないことだけは、はっきりと前面に出して、先手必勝で行くしかない・・・・・・・・)

 自分の年齢を考えれると、怒り心頭に達し鬼気として結婚を迫る父の顔が目に浮かんでしまい、カルヴァドスは思わず笑いを漏らした。それと同時に、もしアイリーンを連れていくことができて、アイリーンこそが自分が人生をささげる女性だと言って紹介した時の父の驚きで開いた口が塞がらなくなる様子も想像がついて笑みが漏れた。
 しかし、アイリーンを連れて行くことも、父に紹介することも実際のところは不可能だ。アイリーンがここへ、タリアレーナへとやってきた真の目的が分からないから。

(・・・・・・・・まあ、親なら当たり前か。とっとと結婚して、そろそろ孫の顔を見せろと言うのが普通の歳になっちまったもんな。でも、俺、一人っ子じゃないしな。腹違いなら弟達も居るわけだし、そこまで俺にこだわらなくてもなぁ。いくら、お袋が本妻とは言え、既に孫の一人や二人は居るはずだろうに。いや、もっとか? ってか、生まれたばっかりの子供が居るとか、エクソシアで噂に聞いたけど、何人弟妹いるんだ、俺・・・・・・・・)

 考えてみると、家出したときに全てを諦めたのか、母はカルヴァドスの顔を見ても結婚の「け」の字も、孫の「ま」の字も口にしない。
 ただ言えることは、先日エクソシアに立ち寄ったにも関わらず、顔を見せなかったことに腹を立てている事だけは間違いないだろう。

 せめて、下に弟が居れば、母も弟に跡を継がせると考えてくれるのだろうが、残念ながら妹ばかりだ。父ほど仲がこじれているわけでは無いので、国に帰る度に母には顔を見せるようにはしているが、何も言わずにジッと見つめる眼差しは、責められているとヒシヒシと感じるので、母に顔を見せるのも、いい加減忍耐が要るのは、多分どちらも同じだろう。
 母には母の正妻としての立場があり、第二夫人や第三夫人、その他大勢の産んだ息子を跡継ぎに指名されるのは我慢のならないことだし、だからと言ってカルヴァドスが大人しく跡を継ぐとも思えないと言うのが母の悩みなのは、カルヴァドスが誰よりもよく分かっているつもりだ。