お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 屋敷の外でパスカルと顔を合わせたカルヴァドスは、呉々もアイリーンの身に危険が及ぶことがないようにと、念には念をおして港への道を歩き始めた。

 身の軽いカルヴァドスなら、あのままアイリーンの部屋へ入ることも出来たし、窓越しに愛を囁くのではなく、アイリーンをしっかりと抱きしめて、その耳元で愛を囁くこともできた。しかし、アイリーンが自ら、カルヴァドスとの間に一線を引いた以上、それを無視する事はカルヴァドスには出来なかった。
 しかし、そんな貴族らしい考え方は、パスカルには理解できなかったようで、当然、朝までカルヴァドスは出てこないと思っていたらしく、顔には『もう帰るのか?』『いくらなんでも、早すぎだろう』と書かれていたが、カルヴァドスは何も言わずにやり過ごした。

 港への道を進み、待たせておいた辻馬車に乗ると宿を目指した。

 船に戻ればやることは沢山ある。
返事を書ききれなかった手紙や、追加情報を求める手紙にも返事を書かなくてはならないし、最悪の親子対面にも備えなくてはならない。

(・・・・・・・・そうか、五年ぶりか・・・・・・・・)

 最後に父に逢ったとき、父はまだカルヴァドスの結婚を諦めておらず、三人の婚約者のうち誰か一人だけで良いから妻にしろとカルヴァドスに迫った。そうでなければ、カーライル公爵としての資産を凍結すると脅され、渋々、三人に逢い、船での生活を説明したところ、見事に三人からお断りを受けた。
 父には、付いてくる気骨のある女性ならば喜んで妻にしたのだが、エクソシアに戻り、屋敷に落ち着くまでは婚姻は控えたいという三人の希望に従いたいと、カルヴァドスは言い、笑顔で『結婚は難しいようです』と答えて父の前を去った。
 家を出て十年以上。正直、親子喧嘩と家出の原因となった三人の婚約者が誰だったのかもカルヴァドスは憶えていない。
 しかし、五年前の父の企みは見事に都の豪華で優雅な生活を手放したくないという貴族の娘らしい考え方によって阻止することができたが、今度の再会でどんな無理難題を押し付けられるかは逢ってみるまで分かったものではない。