「ご心中、お察し申し上げます」
キャスリーンはアイリーンの苦しい心を思うと涙を堪えきれず、目頭を押さえた。
「ですが姫は、レザリヤフォード伯爵家の嫡男、アルフレッド殿と婚約されていたのでは?」
キャスリーンは思い出したように尋ねた。
「ええ、婚約してました。ですが、ダリウス王子に嫁がなくてはならないので、婚約は解消することになりました」
アイリーンは躊躇うことなく答えた。
「よろしかったのですか? 二年も婚約していらしたのに?」
キャスリーンは心配そうに尋ねた。
「叔母様、フレドと私は、ただの婚約のフリです。フレドには、別に愛する女性がいるのです。ですから・・・・・・」
アイリーンが言うと、キャスリーンが目を剝いた。
「ですが、殿下は? 殿下、殿下のお気持ちはいかがなのですか? 殿下が想っていらっしゃるのならば、それは立派な裏切りでございます」
キャスリーンは叔母として問いかけた。
「私もフレドのことは、兄のようにしか思っては居ません。それに、私もフレドではない方を愛しています」
アイリーンの言葉にキャスリーンは驚いたように目を見開いた。
「この旅の間のことです。でも、それは実ることのない初恋です」
「初恋・・・・・・」
キャスリーンはアイリーンの苦しい胸の内を悟った。
「もし、私が王女でなかったらと考えるくらい、その方のことを想うようになりました。でも、私はデロスの王女。初恋が実らないことも、王族の結婚が自分の思い通りにならないことも、ちゃんとわかっています」
アイリーンの告白に、キャスリーンは返す言葉もなかった。
「そろそろ、やすみます」
アイリーンは気持ちを切り替えるようにいった。
「かしこまりました。では、明日の朝食もお部屋に運ばせます。では、お休みなさいませ」
キャスリーンは、叔母としてではなく、臣下の礼をとった。
「叔母様、おやすみなさい」
アイリーンは言うと、うろ覚えになってしまった母の背中を出て行くキャスリーンの背に重ねた。
(・・・・・・・・お母様が生きていらしたら、きっと叔母様と同じような背格好だったはず。きっとお兄様は、叔母様に怒られて、お母様に怒られたような気がしたに違いないわ。でも、どうして叔母様には、お友達の話をしなかったのかしら? もしかして、それは相手が女性だったから? 叔母様に、変な誤解をされないように? でも、叔母様は既に誤解されていらっしゃるわ・・・・・・・・)
アイリーンは考えながらドレスを脱ぐと、メイドの助けもなく一人で着替えを済ませてベッドに入った。
侯爵邸の客間からは海も見えず、波の音も聞こえなかった。
フカフカのベッドと枕に、軽い羽毛の掛け布団、どれも王宮の自分の部屋を思い出させた。
「アイジーとラフディー、元気にしてるかしら? これで、二人が居たら王宮その物なのに・・・・・・。ああ、でも海が遠すぎるわ・・・・・・。王宮からは、神殿越しに海に光を落とす月が美しく見えるんだった・・・・・・。お兄様、今どこにいらっしゃるの? アイリーンは、お兄様を探してタリアレーナまで参りました」
アイリーンは誰にも聞こえない、小さな声で囁いた。
「お兄様、早くお目にかかりたいです・・・・・・」
アイリーンは静かに目を閉じた。
☆☆☆
キャスリーンはアイリーンの苦しい心を思うと涙を堪えきれず、目頭を押さえた。
「ですが姫は、レザリヤフォード伯爵家の嫡男、アルフレッド殿と婚約されていたのでは?」
キャスリーンは思い出したように尋ねた。
「ええ、婚約してました。ですが、ダリウス王子に嫁がなくてはならないので、婚約は解消することになりました」
アイリーンは躊躇うことなく答えた。
「よろしかったのですか? 二年も婚約していらしたのに?」
キャスリーンは心配そうに尋ねた。
「叔母様、フレドと私は、ただの婚約のフリです。フレドには、別に愛する女性がいるのです。ですから・・・・・・」
アイリーンが言うと、キャスリーンが目を剝いた。
「ですが、殿下は? 殿下、殿下のお気持ちはいかがなのですか? 殿下が想っていらっしゃるのならば、それは立派な裏切りでございます」
キャスリーンは叔母として問いかけた。
「私もフレドのことは、兄のようにしか思っては居ません。それに、私もフレドではない方を愛しています」
アイリーンの言葉にキャスリーンは驚いたように目を見開いた。
「この旅の間のことです。でも、それは実ることのない初恋です」
「初恋・・・・・・」
キャスリーンはアイリーンの苦しい胸の内を悟った。
「もし、私が王女でなかったらと考えるくらい、その方のことを想うようになりました。でも、私はデロスの王女。初恋が実らないことも、王族の結婚が自分の思い通りにならないことも、ちゃんとわかっています」
アイリーンの告白に、キャスリーンは返す言葉もなかった。
「そろそろ、やすみます」
アイリーンは気持ちを切り替えるようにいった。
「かしこまりました。では、明日の朝食もお部屋に運ばせます。では、お休みなさいませ」
キャスリーンは、叔母としてではなく、臣下の礼をとった。
「叔母様、おやすみなさい」
アイリーンは言うと、うろ覚えになってしまった母の背中を出て行くキャスリーンの背に重ねた。
(・・・・・・・・お母様が生きていらしたら、きっと叔母様と同じような背格好だったはず。きっとお兄様は、叔母様に怒られて、お母様に怒られたような気がしたに違いないわ。でも、どうして叔母様には、お友達の話をしなかったのかしら? もしかして、それは相手が女性だったから? 叔母様に、変な誤解をされないように? でも、叔母様は既に誤解されていらっしゃるわ・・・・・・・・)
アイリーンは考えながらドレスを脱ぐと、メイドの助けもなく一人で着替えを済ませてベッドに入った。
侯爵邸の客間からは海も見えず、波の音も聞こえなかった。
フカフカのベッドと枕に、軽い羽毛の掛け布団、どれも王宮の自分の部屋を思い出させた。
「アイジーとラフディー、元気にしてるかしら? これで、二人が居たら王宮その物なのに・・・・・・。ああ、でも海が遠すぎるわ・・・・・・。王宮からは、神殿越しに海に光を落とす月が美しく見えるんだった・・・・・・。お兄様、今どこにいらっしゃるの? アイリーンは、お兄様を探してタリアレーナまで参りました」
アイリーンは誰にも聞こえない、小さな声で囁いた。
「お兄様、早くお目にかかりたいです・・・・・・」
アイリーンは静かに目を閉じた。
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