ウィリアムは特定の女性とのつき合いはなかったが、学院の卒業コンサートでヴァイオリンとビオラの弦楽二重奏を奏でる為に一緒に練習をしている女性がいたこと。
その女性は貴族の娘ではなく、技術の高さで奨学金を貰って特待生として学院で学んでいてウィリアムとペアーを組むことになったこと。その女性と練習をするため、何度かその女性を侯爵邸に招いて練習をしたこともあったことなどを説明した。
キャスリーンが耳にした会話の様子では、ウィリアムは彼女の部屋にも行ったことがあるようで、そこでは練習が難しいからと話していたことなどから、キャスリーンは一番にその女性の事を疑い、部屋を探そうとしたが、女性は卒業を目前に退学し、借りていたアパートも引き払っており、キャスリーンは正直、二人が駆け落ちしたのではと考えているようだった。
しかし、ウィリアムの責任感の強さを知っているアイリーンは、キャスリーンの駆け落ち説を即座に否定した。
「お兄様であれば、その方を連れて国に戻り、妻にするとお父様に直談判することはあっても、駆け落ちすることはありません。その女性のお名前と、容姿、あと住んでいた場所を教えて下さい。私が探しに参ります」
アイリーンの言葉に、キャスリーンは頭を横に振った。
「近くの住人は、行方は知らないと。それに外泊した先は、ページボーイにつけさせたところ、殿下は歓楽街の連れ込み宿に・・・・・・」
キャスリーンは言いながら目を伏せた。
よい歳の男なのだから、そういう欲求を感じることはある意味健康的なことで、デロスのような小さな国では表立って遊ぶことは出来ないが、素性を知られていないタリアレーナであれば、ある意味簡単にお忍びで遊ぶことが出来るのも事実だった。
そうは言っても人の口に戸は立てられない。口の堅い高級娼婦を買うとなれば、それなりの費用がかかる。入れ込んで、通い詰めれば、それなりにまとまったお金が必要になってくることになるが、留学費用が民の納めた税金である事を知っているウィリアムが自分の遊興費がかさんでいることを友人を助けるためにお金が必要だとアイリーンに手紙で説明するとも思えなかったし、どう考えてもアイリーンには物事全ての意味と辻褄があわなく感じられた。
「とにかく、その場所も教えて下さい。出来るだけ早く、その場所に行ってみたいので。その、お兄様の後を付けたページボーイに案内を頼めますか?」
「それは、もちろんです。ですが、あそこは若い女性が行くような場所ではございません!」
キャスリーンはあわてて否定した。
「大丈夫です。これでも、殿方ばかりの船に乗って旅してきたのです。もう、昔のような箱入り娘ではございません」
アイリーンは笑って見せたが、キャスリーンは不安でたまらないといった表情をうかべていた。
「では、明日、ご案内させましょう」
「よろしくお願い致します」
アイリーンはお礼を言うと、すっと立ち上がって窓の外を見た。
「ここからは、海が見えないのですね」
小さなデロスでは、王宮の窓からも海を見ることができた。
「そうですわね。慣れるまでは、私も海の音を恋しく感じました」
キャスリーンの言葉に、アイリーンは叔母が今も深くデロスを愛しているのだと感じた。
「叔母様、絶対にデロスが地図から消えるような事には致しませんから、ご安心下さい」
アイリーンの言葉に、キャスリーンは不安と戸惑いを露に問いかけた。
「殿下、それがパレマキリアとの、あのダリウス王子との結婚ということなのですか? 陛下も、亡くなったお姉さまも、姫の幸せを何よりも祈っておりましたのに」
キャスリーンの言葉はとても嬉しかった。しかし、もう、万策尽きたアイリーンに選択肢はなかった。
「いま、デロスは存亡の危機に立たされているのです。今までの脅しとは違い、パレマキリアは・・・・・・。いえ、ダリウス殿下は本気です。私が結婚を断れば、デロスの民を手に掛けると。海の女神の神殿をデロスの民の霊廟にするだけでなく、お兄様とお父様を処刑するとダリウス殿下はハッキリと口にされました・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
余りのことに、キャスリーンも絶句した。
「もし、私が期限までにお兄様を見つけることが出来なかったら、お父様に全てをお話しし、お兄様を廃嫡し、サイラス伯父様を後嗣に擁立していただきます。その上で、私はパレマキリアへ嫁ぎます。後嗣になった後にサイラス伯父様が離婚されても王位継承権は失われませんから。でも、先に伯父様の離婚が成立してしまったら、伯父様は永遠に王位継承権を失ってしまいます。ですが、離婚前に後嗣となれば、伯父さまが離婚後に再婚され子供が産まれれば、私とダリウス王子の間に子供が産まれたとしても、デロス王室は揺るぎません。ですから、叔母様が故郷を失うような悲劇は訪れません。だから、どうか、ご安心下さい」
アイリーンは言うと、カーテンを閉めた。
その女性は貴族の娘ではなく、技術の高さで奨学金を貰って特待生として学院で学んでいてウィリアムとペアーを組むことになったこと。その女性と練習をするため、何度かその女性を侯爵邸に招いて練習をしたこともあったことなどを説明した。
キャスリーンが耳にした会話の様子では、ウィリアムは彼女の部屋にも行ったことがあるようで、そこでは練習が難しいからと話していたことなどから、キャスリーンは一番にその女性の事を疑い、部屋を探そうとしたが、女性は卒業を目前に退学し、借りていたアパートも引き払っており、キャスリーンは正直、二人が駆け落ちしたのではと考えているようだった。
しかし、ウィリアムの責任感の強さを知っているアイリーンは、キャスリーンの駆け落ち説を即座に否定した。
「お兄様であれば、その方を連れて国に戻り、妻にするとお父様に直談判することはあっても、駆け落ちすることはありません。その女性のお名前と、容姿、あと住んでいた場所を教えて下さい。私が探しに参ります」
アイリーンの言葉に、キャスリーンは頭を横に振った。
「近くの住人は、行方は知らないと。それに外泊した先は、ページボーイにつけさせたところ、殿下は歓楽街の連れ込み宿に・・・・・・」
キャスリーンは言いながら目を伏せた。
よい歳の男なのだから、そういう欲求を感じることはある意味健康的なことで、デロスのような小さな国では表立って遊ぶことは出来ないが、素性を知られていないタリアレーナであれば、ある意味簡単にお忍びで遊ぶことが出来るのも事実だった。
そうは言っても人の口に戸は立てられない。口の堅い高級娼婦を買うとなれば、それなりの費用がかかる。入れ込んで、通い詰めれば、それなりにまとまったお金が必要になってくることになるが、留学費用が民の納めた税金である事を知っているウィリアムが自分の遊興費がかさんでいることを友人を助けるためにお金が必要だとアイリーンに手紙で説明するとも思えなかったし、どう考えてもアイリーンには物事全ての意味と辻褄があわなく感じられた。
「とにかく、その場所も教えて下さい。出来るだけ早く、その場所に行ってみたいので。その、お兄様の後を付けたページボーイに案内を頼めますか?」
「それは、もちろんです。ですが、あそこは若い女性が行くような場所ではございません!」
キャスリーンはあわてて否定した。
「大丈夫です。これでも、殿方ばかりの船に乗って旅してきたのです。もう、昔のような箱入り娘ではございません」
アイリーンは笑って見せたが、キャスリーンは不安でたまらないといった表情をうかべていた。
「では、明日、ご案内させましょう」
「よろしくお願い致します」
アイリーンはお礼を言うと、すっと立ち上がって窓の外を見た。
「ここからは、海が見えないのですね」
小さなデロスでは、王宮の窓からも海を見ることができた。
「そうですわね。慣れるまでは、私も海の音を恋しく感じました」
キャスリーンの言葉に、アイリーンは叔母が今も深くデロスを愛しているのだと感じた。
「叔母様、絶対にデロスが地図から消えるような事には致しませんから、ご安心下さい」
アイリーンの言葉に、キャスリーンは不安と戸惑いを露に問いかけた。
「殿下、それがパレマキリアとの、あのダリウス王子との結婚ということなのですか? 陛下も、亡くなったお姉さまも、姫の幸せを何よりも祈っておりましたのに」
キャスリーンの言葉はとても嬉しかった。しかし、もう、万策尽きたアイリーンに選択肢はなかった。
「いま、デロスは存亡の危機に立たされているのです。今までの脅しとは違い、パレマキリアは・・・・・・。いえ、ダリウス殿下は本気です。私が結婚を断れば、デロスの民を手に掛けると。海の女神の神殿をデロスの民の霊廟にするだけでなく、お兄様とお父様を処刑するとダリウス殿下はハッキリと口にされました・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
余りのことに、キャスリーンも絶句した。
「もし、私が期限までにお兄様を見つけることが出来なかったら、お父様に全てをお話しし、お兄様を廃嫡し、サイラス伯父様を後嗣に擁立していただきます。その上で、私はパレマキリアへ嫁ぎます。後嗣になった後にサイラス伯父様が離婚されても王位継承権は失われませんから。でも、先に伯父様の離婚が成立してしまったら、伯父様は永遠に王位継承権を失ってしまいます。ですが、離婚前に後嗣となれば、伯父さまが離婚後に再婚され子供が産まれれば、私とダリウス王子の間に子供が産まれたとしても、デロス王室は揺るぎません。ですから、叔母様が故郷を失うような悲劇は訪れません。だから、どうか、ご安心下さい」
アイリーンは言うと、カーテンを閉めた。



