お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 いままで、何度も、皇帝はデロスより姫を妻にと望み、デロスの守護者となる道を模索したが、デロスから妻を娶ると言うことは、一夫多妻を諦める必要がある。
 齢十四にして三人の婚約者が居て当然のエクソシアでは、デロスの王女と結婚の話がでる頃には既に妻の一人、二人、娶っているというのが普通で、未だに一人も妻の居ないカルヴァドスがある意味異常なのだ。
 デロスの姫との結婚の為に必要ならば、全ての妻を実家に返すと交渉の場で豪語した皇帝も居たが、デロス王はそんな事は望まなかった。
 誰かの幸せを壊さなくては実現できない政略結婚が、真に実りのあるものになるとは思えなかったからだ。それに、一夫多妻に慣れた夫が、終生、デロスの王女であった妻に対して不貞を働かないという確約もない。
 祖国から遠く離れた地で、もし、夫が不貞を働くようなことがあれば、嫁いだ姫は自分が姫巫女であったが故に苦悩する。そうなる姿を見たくないというのが、歴代のデロス王の考えで、デロス王が姫巫女の結婚相手として望むのは、ノティアソーラ王国かエイゼンシュタイン王国、どちらも一夫一婦制の国だが、デロスからは距離が離れている。

 ノティアソーラ王国は強い海軍と、デロスと同じ、イエロス・トポスの飛び地のような聖地を抱えているし、祖先がイエロス・トポスから来たこともあり、髪の毛の色や肌の色など、外見がよく似ていることもあり、他国から嫁いできたという違和感がないからだ。そして、エイゼンシュタインは言わずとしれた自由恋愛の国、お年頃の王子が居るが、エイゼンシュタインは同盟に加盟していないイルデランザ公国と親密な関係で、ある意味、イルデランザ公国の守護者である。

 次に候補となるのはボレイオス帝国だが、南国のデロスから嫁ぐには環境が厳しすぎるというのが難点だった。何しろ、殆ど四季の差がないデロスは、一年中夏と言っても過言ではない。それに対してボレイオス帝国は一年中冬だ。イエロス・トポスの守護者でもあるボレイオス帝国やコラピソ帝国は、名前は挙がるが、環境や言葉の面から、デロスから嫁ぐのは難しいと考えられている。

 エイゼンシュタインがもう少し近ければと言うのが、デロス国王の悩みだった。有事に直ぐに助けに来て貰えないのでれば、デロスの守護者としては望ましくない。
 更に言うなら、エイゼンシュタインの王子の自由奔放な恋愛遍歴は、尾ひれが付いてデロスにまで聞こえてきている。噂では、イルデランザの大公の甥と、自由恋愛の国であるエイゼンシュタインで、タリアレーナ式の派手な恋愛をしているとか、そう聞くとデロス王の興味は一気に削がれた。
 それに、エイゼンシュタインに嫁いだ身内は、亡くなった王妃の妹だが、嫁ぎ先は伯爵家でデロスとの橋渡しを出来るような立場には無かった。