その晩、部屋に帰ったアイリーンは、名残惜しむように部屋の中を見回した。
本当は、お礼に部屋の掃除をしたいと思ったが、タリアレーナを目前に、そんな心の余裕は無かった。
「姫さん、月を見にいかないか? 今晩は、入港の順番待ちで、沖で停泊してるから揺れはほとんどない。もし、姫さんが望むなら、女神像のところでお祈りも出来る」
カルヴァドスとの月見と考えると、心が違う方にはやってしまいそうだったが、女神像に祈れると言われ、アイリーンは喜んで頷いた。
「是非、お願いします」
「じゃあ、行こうか」
カルヴァドスに手を引かれ、部屋の外にでると、海の向こうに明々とタリアレーナの港町が広がっていた。
アイリーンが初めて見る、タリアレーナ王国の王都のカタリの姿だった。
カタリには名だたる音楽院、芸術学校、舞踊学校が集まっている。
六ヶ国同盟の国で芸術を学ぶと言えば、間違いなくタリアレーナに留学する。世界中で活躍する音楽家、芸術家、舞踏家の殆どがタリアレーナで学んだと言われるくらいタリアレーナは芸術の国としてしられていた。それだから、無理をして兄のウィリアムも本場のタリアレーナでヴァイオリンを学びたいと父王に願い出たのだった。
船首の女神像の前で跪くと、アイリーンは一刻も早く兄のウィリアムが見つかるようにと海の女神様にお祈りした。
それと同時に、何も出来ない自分を親切に船に乗せてくれた大海の北斗七星号のクルーの安全、カルヴァドスが無事、お父様と和解できるようにと、アイリーンは祈った。
長い祈りの後、立ち上がったアイリーンをカルヴァドスが抱き締めた。
「あの、カルヴァドスさん、困ります」
拒むと言うよりも、カルヴァドスを説得しようとするアイリーンに、カルヴァドスは『分かってる』と言ったが直ぐには放さなかった。
「必ず、姫さんの結婚、無かったことにしてみせるから」
「カルヴァドスさん」
「エクシソシアは、デロスの保護者になりたいとずっと、思ってるから。だから、エクシソシアが動けば、パレマキリアに嫁ぐ話なんてなくなるから。そうしたら、俺、姫さんを貰いに行くから。ちゃんと、正装して、ちゃんとした身分に戻って、姫さんに想いを伝えに行くから、それまで、絶対に他の男と結婚したりしないと約束して欲しい」
カルヴァドスが話しているのは夢物語だとアイリーンは思った。
エクシソシアが動いたとしても、六ヶ国同盟からのデロス不可侵の申し入れも無視していきなり攻め込んできたパレマキリアが、エクシソシアの話を聞くとも思えなかった。それに、ダリウス王子がアイリーンとは相思相愛で結婚の約束を交わしたと言い張れば、例えパレマキリアが兵を退いたとしても、結婚の話はなくなりはしない。
本当は、お礼に部屋の掃除をしたいと思ったが、タリアレーナを目前に、そんな心の余裕は無かった。
「姫さん、月を見にいかないか? 今晩は、入港の順番待ちで、沖で停泊してるから揺れはほとんどない。もし、姫さんが望むなら、女神像のところでお祈りも出来る」
カルヴァドスとの月見と考えると、心が違う方にはやってしまいそうだったが、女神像に祈れると言われ、アイリーンは喜んで頷いた。
「是非、お願いします」
「じゃあ、行こうか」
カルヴァドスに手を引かれ、部屋の外にでると、海の向こうに明々とタリアレーナの港町が広がっていた。
アイリーンが初めて見る、タリアレーナ王国の王都のカタリの姿だった。
カタリには名だたる音楽院、芸術学校、舞踊学校が集まっている。
六ヶ国同盟の国で芸術を学ぶと言えば、間違いなくタリアレーナに留学する。世界中で活躍する音楽家、芸術家、舞踏家の殆どがタリアレーナで学んだと言われるくらいタリアレーナは芸術の国としてしられていた。それだから、無理をして兄のウィリアムも本場のタリアレーナでヴァイオリンを学びたいと父王に願い出たのだった。
船首の女神像の前で跪くと、アイリーンは一刻も早く兄のウィリアムが見つかるようにと海の女神様にお祈りした。
それと同時に、何も出来ない自分を親切に船に乗せてくれた大海の北斗七星号のクルーの安全、カルヴァドスが無事、お父様と和解できるようにと、アイリーンは祈った。
長い祈りの後、立ち上がったアイリーンをカルヴァドスが抱き締めた。
「あの、カルヴァドスさん、困ります」
拒むと言うよりも、カルヴァドスを説得しようとするアイリーンに、カルヴァドスは『分かってる』と言ったが直ぐには放さなかった。
「必ず、姫さんの結婚、無かったことにしてみせるから」
「カルヴァドスさん」
「エクシソシアは、デロスの保護者になりたいとずっと、思ってるから。だから、エクシソシアが動けば、パレマキリアに嫁ぐ話なんてなくなるから。そうしたら、俺、姫さんを貰いに行くから。ちゃんと、正装して、ちゃんとした身分に戻って、姫さんに想いを伝えに行くから、それまで、絶対に他の男と結婚したりしないと約束して欲しい」
カルヴァドスが話しているのは夢物語だとアイリーンは思った。
エクシソシアが動いたとしても、六ヶ国同盟からのデロス不可侵の申し入れも無視していきなり攻め込んできたパレマキリアが、エクシソシアの話を聞くとも思えなかった。それに、ダリウス王子がアイリーンとは相思相愛で結婚の約束を交わしたと言い張れば、例えパレマキリアが兵を退いたとしても、結婚の話はなくなりはしない。



