お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

「なあ、姫さん。俺達は、姫さんをタリアレーナに降ろしたら、直ぐにエクシソシアにとって返して、また、直ぐにタリアレーナに戻る。だから、もう一度、タリアレーナで逢ってくれないか?」
「それは、出来ないと思います」
 アイリーンは俯いて言った。
「私は、姫様に書いていただいた紹介状を持って侯爵様のお屋敷で下働きをしながら、彼を捜すのですから、とても、そんな時間は無いと思います」

(・・・・・・・・侯爵の屋敷。つまり、アイリーンの叔母に当たるキャスリーンの嫁いだシュナイダー侯爵邸に滞在するってことか。下手な宿に滞在されるよりは安全だ・・・・・・・・)

「姫さん、別に、一目逢ってくれるだけで良いんだ。時間を沢山貰うつもりはない。エクシソシアで、俺もデロスを助ける手伝いをしたいと思ってるし、姫さんに、本気で結婚を申し込めるような立派な貴族に戻るには、父に頭を下げて家に帰るしかないと思ってる。だから、次にタリアレーナに行くのを最後にして、俺は船を降りるつもりなんだ。だから、最後に、一目だけで良いから逢いたいんだ」
 カルヴァドスの言葉に、アイリーンは無言で頷いた。
 どんなにカルヴァドスが頑張ってくれたとしても、王族同士の約束は簡単には変えることは出来ない。ましてや、アイリーンは嫁ぐことを承諾してしまっている。
 そうは言っても、親子がいつまでも不仲でいるのは望ましくない。どんな理由であれ、カルヴァドスが屋敷にもどれば親子は仲直りできるのだから、それはそれで喜ばしいことだとアイリーンは考えた。
「では、一目だけ。それ以上の事は、何も今はお約束できません」
「それでかまわない。でも、忘れないで居て欲しい。俺は、姫さん以外の妻を貰うつもりはないし、俺が愛しているのは姫さんだけだから」
 それをアイリーンは、自分ではなく、デロスの姫巫女の事と理解する事にした。
「部屋に戻ります」
「ああ、ぶっ飛ばしてタリアレーナを目指すからな、部屋で大人しくしていた方がいい」
 アイリーンを部屋に押し込むと、カルヴァドスは再び操舵室へと戻っていった。



 それから、タリアレーナに着くまでの日々、大海の北斗七星号は空を飛ぶようなスピードで帆にいっぱい風を受けて、今にも空を飛びそうなスピードで航海を進めた。
 そのせいで、サロンでの夕食も静かに上品にとは行かず、それぞれ、自分の皿が飛んでいかないか、グラスが飛んでいかないかを注意して、手で押さえながら食事をする、緊張した食事時間が続くので、アイリーンは自発的に朝食は辞退して、残り物のパンとチーズを自室で食べ、お昼はクルーの食堂に下りることにした。
 船が揺れるので、字の勉強は中々進まなかったが、それでも、限りある日数を有効に生かしたいと、みんな必死に勉強を続けていた。
 夜だけは、カルヴァドスに言われ、アイリーンはサロンでの夕食に加わることにしていた。
 それでも、カルヴァドスは以前のように気安くアイリーンとだけ言葉を交わすのではなく、みんなと同じように話題に入り、たまにアイリーンに意見を振る程度だった。