お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

「姫さん! 何やってんだ!」
 後ろから抱き抱えられ、アイリーンは危うく船の外へ落ちずに済んだ。
「何時もより揺れが酷いから、まさかと思って見にきたら、もう少しで落ちるところだったぞ!」
 カルヴァドスは怒ると言うよりも、焦っているに近かった。怒鳴り声に反して、しっかりとアイリーンを抱き締める腕にこもる力が、全てを物語っていた。
「ごめんなさい。気分が悪くなってしまって」
 謝るアイリーンをカルヴァドスはしっかりと抱き締めた。
「しばらく、こうして風に当たってたら、直ぐに良くなる」
「でも、お仕事は?」
「姫さんより、大切なものが俺にあると思ってるのか?」
 カルヴァドスの言葉が嬉しくて、思わず笑みがこぼれそうになったが、カルヴァドスを拒まなくてはいけない事をアイリーンは頭では理解していた。
「私は、部屋に戻りますから、お仕事に戻って下さい」
 アイリーンの精一杯の強がりだった。
「何言ってんだ! クルーが落ちたら、船は港に引き返しだ、分かってんのか?」
 カルヴァドスの言葉どおり、しばらく風に当たっていると、気分の悪いのはすっと退いていった。
「もう、大丈夫そうだな?」
 船が沖に出て揺れが少なくなった頃、カルヴァドスが安心したように言った。
「姫さんも、随分、船に慣れたな。これなら、帰りはずいぶん楽に帰れるぞ」
 カルヴァドスの言葉に、アイリーンは素直に頷くことが出来なかった。
 帰れば、待っているのはダリウス王子との結婚。婚約を解消して時間を稼ぐと説明した父王が、直ぐにアイリーンがダリウス王子に嫁ぐと知れば、驚きと悲しみで病が酷くなってしまうかもしれない。
 それでも、兄のウィリアムを連れて帰ることさえ出来れば、父王も気を取り直してくれるだろうが、万が一にも、時間内にウィリアムを見つけることが出来なかったらと、考えるだけで胸が苦しくなった。

(・・・・・・・・もう、恋をしている時間は無いのよ。しっかりしなさい、アイリーン! あなたは、デロスの王女でしょ!・・・・・・・・)

 アイリーンは心の中で自分を叱咤した。