お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 一番鶏が鳴く頃から船はバタバタと走るクルーの足音で賑やかになった。
 デロスを出るときもそうだったが、既に補給の終わっている船は、クルー全員が戻ったのを確認するとゲートを閉めた。
 畳んでいた帆を広げ、湾を出るために誘導用のボートにあわせて回頭する。デロスでは誘導用のボートは出ないが、エクシソシアの港は大きく、常に沢山の船の出入りがあるため、誘導用のボートが港湾施設内での事故を回避するために誘導をしていた。
 貨物の殆どを下ろした大海の北斗七星号は、以前よりも動きが速いようにアイリーンには感じられた。
 帆が風を捉え、繋留用のロープが解かれると、船は風に乗って海の上を滑るように出航した。
「うっほー! 荷物が少ないと速いですね~」
 オスカーが離れていく港を見ながらはしゃいでいた。
 出航に伴い、カルヴァドスは操舵室に詰めているので、アイリーンは一人、部屋の中で過ごしていた。
 いつものことだが、凪いだ港から外海に出るときの揺れは激しく、アイリーンは念のために朝食を抜いていたが、胃ごと掃き出したくなるような吐き気は、やはり今度も襲ってきた。

(・・・・・・・・これって、皆は気持ち悪くならないって事は、慣れるのよね?・・・・・・・・)

 フラつきながら部屋を出て船縁にしがみつくアイリーンの眼下をものすごいスピードで海が流れていく。

(・・・・・・・・すごい、速い。風も、いつもより強い気がする・・・・・・・・)

 目の前がクラクラするようで、必死にしがみついているものの、波が上まで飛沫をあげて船縁が塗れているので、油断するとアイリーンは船から落ちてしまいそうだった。