お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 デロスとの国境近くの城に引き上げたダリウスは、退屈な日々を過ごしていた。
 長年、アイリーンを妻にと狙っていた最大の理由は、あの美しいストロベリーブロンドの髪と透けるような白く滑らかな肌だった。
 他に類を見ないと言われるほど美しく神秘的で、どんなに太陽に当たっても日焼けすらしない透けるような白い肌。考えるだけで、早く自分のものにしたいと欲望が滾ってくる。
 列強六ヶ国から大切にされているデロス、信仰の聖地の一つとして、六ヶ国はデロスを保護し、独立の国として扱おうとしているが、パレマキリアからしてみたら、一半島の突端にすぎない。
 王女のアイリーンを妻に迎えれば、国王は持病を持っているし、王太子は奇病にかかっていて体感することは不可能、そうなれば、そう遠くない日にアイリーンが王位を継承することになる。
 アイリーンの王位継承に邪魔な病気の兄も、邪魔な父王も、婚儀の後にさっさと始末してしまえばいいだけのことだった。
 パレマキリアの法律では、妻の財産は全て夫のもの。妻の保有する爵位や所領は全て夫のものとなる。
 そう、アイリーンを妻にすれば、ダリウスは待っているだけで、父が成し得なかったデロスの併合を成し遂げることが出来るのだ。

 万が一にも、結婚に際してアイリーンが王位継承権を放棄することが無いように、王弟で内大臣をしているサイラスの妻の元には絶えず若くて美しい男をあてがい、絶え間なく浮気させている。

 小さい国ゆえ、王族が争いを起こさぬように王位継承者を限定するために考えられた法律。離婚すれば王位継承権を自動的に喪失し、その子供も準じて継承権を失う。理由は、離婚したあと再婚することで、前夫人もしくは夫との間の子供と新しい夫人もしくは夫との間の子供、両方に王位継承権が継承されるのを防ぐためだ。これは、兄弟の対立や王家の分裂を起こさせないための法律。嫁げば離婚を許されない姫巫女を慮ってつくられた法律でもある。死別以外の離婚を許されない姫巫女は、夫が死別すると自動的に海の女神の神殿に巫女として戻る事になる。それが、デロス独特の王族に課せられた厳しい決まりだった。

 もともと、イエロス・トポスで神官になることを望んでいた真面目なサイラスは、淫らな妻の本性を知って以来、ずっと離婚を考えている。しかし、デロスの法は離婚により王位継承権が剥奪される。病の床に臥している兄と甥を抱え、離婚に踏み切ることはさすがのサイラスにもできないことだが、そのことはダリウスはまだ知らなかった。