それでも、デロスが必要とする食材や燃料などは基本パレマキリアから輸入されている。そこにかかる関税は二百パーセント。つまり、パレマキリアで銅貨一枚の品がデロスでは銅貨三枚になる。長年、デロス王室は民に重税を課さないで済むように、王室の財産を関税の支払いに充てるようにして、国内のインフレを防いでいるが、観光の他は、水産資源と真珠、珊瑚という特産品しかないデロスだが、国内での装飾品の加工が出来ないため、大抵はパレマキリアが二束三文で買いたたいているが、エイゼンシタインを始めとする列強六ヶ国が定期的に大量の買い付けを行いパレマキリアが強いている不当低価格取引を邪魔していた。それでも、エクソシアはただの遠い国、パレマキリアは陸へと続く唯一の門となる国、デロスが多くの不当な要求を飲まさせられてきたことは言うまでもない。
返事に目を通していると、コベントリーが戻ってきた。
エクソシア一を誇る、皇帝御用達の宝石商だけに、品揃えは素晴らしかった。
「いかがでございましょうか?」
目の前に並べられたダイヤモンドにカルヴァドスは声を失った。
太陽の光に眩く輝く石は、どれも最高級だと聞かなくても分かるほど、目にも明らかだった。
その中に、透明ではない変わった色の石が幾つか混ざっていた。
「コベントリー、これは?」
カルヴァドスは色付きの石を指さした。
「はい、閣下。こちらは、最近見つかりましたシャンパン色のダイヤモンドでございます。また、その隣は、同じく、最近発見されましたピンク色のダイヤモンドでございます。まだ、どちらも、皇帝陛下もお持ちではございません」
コベントリーの説明に、カルヴァドスは色付きのダイヤモンドを身に付けたアイリーンの姿をイメージしてみた。
(・・・・・・・・きっと、シャンパン色はイヤリングがいい。それに、ピンクは胸元に美しいだろう。いや、待て。皇帝陛下も持っていない? これは、手を出すべきではないな・・・・・・・・)
カルヴァドスは思い直すと、アイリーンの細い指には少し大きすぎるかと思いながら、一カラットを超える最上級の透明の石を選んだ。それから、リングはプラチナ地に、ゴールドでバラのつるをイメージする模様加え、石を薔薇の花に、そして石の留め金を薔薇のがくに見立てて指輪を造ってくれるように頼んだ。
(・・・・・・・・父上と和解し、エクソシアの公爵として、デロスの王女であるアイリーンにプロポーズしたら、アイリーンは俺との結婚を考えてくれるだろうか? エクソシアが動けば、すぐにパレマキリアは兵を退いて、鬼畜王子との結婚の話もなくなるはず。まさか、今更、自分は王女じゃないとか、訳の分からない理由ではぐらかされたりしないよな? それとも、公爵では、身分が低すぎるか? 仮にも、鬼畜とはいえ、奴は王子だからな。いや、でも、もともとの婚約者は伯爵家の嫡男だったはず。それならば、公爵で問題ないはずだ・・・・・・・・)
カルヴァドスは踊り出しそうに荷物を片づけて帰って行くコベントリーを見送りながら、一人苦悶した。
夕方まで、手紙の返事が五月雨式に届き、カルヴァドスは届く度に、丁寧に返事を書き、速やかに皇帝陛下に働きかけてくれるよう頼み込んだ。
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