お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 本当なら、アイリーンと楽しく過ごす一日だったが、こうして考えてみると、アイリーンが居たら出来ない事をするのにはもってこいだった。
 今更、身分を隠しておくのもどうかと思いながら、アイリーンが身分を明かしてくれないのに、自分だけが身分を明かすのも色々と後々話がややこしくなるのではと、カルヴァドスは敬遠して、今回も貴族の御曹司の豪遊ではなく、船乗りが昔とった杵柄で、紳士をしてみましたと言った時間を持ってみたのだった。
 やはり、アイリーンは王女。いつもの軽い船乗り姿のカルヴァドスに対してよりも、きちんとした貴族の子息と然とした姿のカルヴァドスを見つめる瞳は何時もより情熱的で、自分と釣り合いが取れると考えてくれたのではとカルヴァドスは考えていた。

 それが、まさかアイリーンが海の女神に許しを得て、ただ一日、カルヴァドスの恋人として過ごしていたからだとは、カルヴァドスには全く想像もつかなかった。
 昼食を取り、念のため、父との面会が叶ったときのために新しい服を仕立てるため仕立屋を呼び、次の寄港までに用意することを命じて下がらせた。
 その間にも、続々と手紙の返事が返ってきた。
 デロスの銀貨を見たことで、カルヴァドスが口先だけで物を言っているのではなく、デロスで情報を収集し、王家に仕える者から正確な情報を入手したのだと理解してもらえたようで、殆どが好意的だった。
 中には、情報提供者に直接会って質問したいことがあるというものもあったが、カルヴァドスはアイリーンに会わせるつもりはなかったので、安全なタリアレーナに一時的に匿う途中なので、代わりに質問の答えを貰うことは可能だが、直接の面会は身の安全の為に控えて欲しいと返事を書いた。
 この十年、存在を忘れられて居たと思っていたカルヴァドスだったが、帰ってくる手紙には、いつか他の誰も成し遂げられなかったことをカルヴァドスならば、成し遂げると信じていたというような事が書かれていた。