お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 美しく流れる様な文字で『カルヴァドス様』と書かれていた。
 時間は既に十時だった。

(・・・・・・・・もしかして、おなか減ったのか? いやいや、ラブレターってのは、恋人の間でも嬉しいもんだよな・・・・・・・・)

 完全に頭が幸せボケしてるカルヴァドスは、ワクワクしながら封筒に手を伸ばし、封筒を持ち上げようとした途端、全身の血の気が引いていくのを感じた。
 封筒は重さで枕にめり込んでおり、手紙だけが入っている様な軽いものではなかった。
 飛び上がるようにして起きあがり、ずっしりと重みのある封筒を震える手で持ち上げると、急いで封を開けた。
 中には手紙と、デロス銀貨が溢れるほど、そして、シルクのハンカチに包まれたルビーのネックレースが入っていた。
 零れ落ちる銀貨には目もくれず、カルヴァドスは手紙を開いた。
 手紙には、宛名と同じ美しく流れるような文字でカルヴァドスへのお礼と、お詫び、そして、心からカルヴァドスのことを愛していると書かれていた。
「誰に嫁いでも、愛しているのは俺だけ? なら、何で俺をおいて船に帰ったりするんだよ! どんなに頑張っても姫にはなれないって、どうして俺にだけは本当のことを話してくれないんだ!」
 カルヴァドスはぶつける相手の居ない怒りを拳を握りしめて堪えた。
「何だよ、この金は! ドレスとアクセサリー代? 大過ぎんだろ!」
 声を上げてから、カルヴァドスはアイリーンにデロスの通貨と六ヶ国同盟国の通貨が固定レートで交換されていることは話したが、パレマキリアの横暴な関税と通行税を払わさせられるデロスが物凄い物価の高い国であり、デロス銀貨の価値はエクソシアやタリアレーナの銀貨の二倍から三倍の価値が有ることを説明していなかった。だから、多分、小さな国の通貨だから交換率が悪いだろうと、アイリーンがカルヴァドスの懐を心配して持っているだけの銀貨を入れただけでなく、身に付けてきたアクセサリーまで置いていったのだと理解した。
「何でだ! アイリーンのおかげで、俺は、やっと自分の運命を受け入れる決心がついたのに!」
 カルヴァドスは拳でベッドを叩いた。
 しばらくの間、気持ちを落ち着けるのにカルヴァドスには時間が必要だった。
 短いつき合いではあったが、自分の素性以外アイリーンが嘘をつく女性では無いことをカルヴァドスは理解していたので、とりあえず零れ落ちた銀貨を拾い集めると、ネックレースと一緒に預かることにしてコンシェルジュを呼んだ。
 ドアー口に現れたコンシェルジュは、不機嫌そうなカルヴァドスに緊張しているようだった。
「連れが、何時頃出て行ったか確認してもらえるか? それから、朝食は部屋で摂る。それから、手紙を書くので、届ける手配をしてくれ」
 立て続けに命令するカルヴァドスは、いつもの優しいカルヴァドスではなかった。
「かしこまりました。カーライル公爵様。ただいま、調べて参ります」
 コンシェルジュは言うと、直ぐに踵を返して部屋から去っていった。
 五分もしないうちに朝食が運び込まれ、カルヴァドスが着替えて席に着いたところに先程のコンシェルジュが戻ってきた。
「公爵様、お連れ様の為に馬車を手配したのは、朝の六時半頃のことでございます」
「行き先は?」
「港までとのことでございました」

(・・・・・・・・船に帰ったのか・・・・・・・・)

 カルヴァドスがチップを渡そうとすると、コンシェルジュが後ろにさがった。