ホテルを出た二人は、カルヴァドスの計画通り、カフェでお茶と軽い軽食を摂った。
「あの、エクソシアで、デロスのお金は使えますか?」
 アイリーンは、気になっていた問いをカルヴァドスに投げかけた。
「デロスのお金は、イエロス・トポスと同じ、中立域流通通貨だから、六ヶ国同盟に入っている国ならばどこでも使える。中立域流通通貨とは変換レートが固定だから、国によって物価の上下は有るけど問題なく使える。それから、六ヶ国同盟の同盟国の硬貨は、同じく固定レートだから、そのまま使える。だから、デロスの硬貨で払って、エクソシアの硬貨でお釣りを貰ったら、それはタリアレーナでもそのまま使える」
 お金を持たないアイリーンにとって、どうやっていろんな国々に散らばった硬貨が元の国に戻ってくるのかは謎だったが、アクセサリーを換金しなくて済むのはありがたかった。
 お茶を飲んだ後、二人はドレスを買いにレディーメイドのドレス店へとむかった。
 普通、アイリーンはフルオーダーのドレスしか着ないが、それでは仕立てに時間もかかるし、二日という短い滞在ではドレスを購入する事ができない。
 しかし、そんな船旅の客のためにあるのがレディーメイドのドレス店だ。
 幾つかのベースとなるサイズに合わせて仕立てられたドレスのあわない部分だけを短時間で直して、すぐに着られるようにしてくれるありがたい店だ。当然、アイリーンは初めて来るので勝手が全くわからないが、カルヴァドスが慣れた様子でアイリーンに似合いそうなドレスを何点か選んでくれた。
 その中から、夜のディナー用に一着と、タリアレーナで、侯爵家を訪ねるときに着る服を一着、合計二着購入することにし、試着して修正箇所を細かくチェックして貰ったアイリーンは、元のドレスに着替えた。
 ドレスを買うとついてくるのが、靴と帽子にハンドバッグ。それも全てコーディネートされて用意されているので、アイリーンは合うものをそれぞれ選んでいった。
「アイリ、タリアレーナでは、パラソルが人気だから、一本用意しておく方がいい」
 カルヴァドスに勧められ、アイリーンはタリアレーナで、流行っているというレースがふんだんにあしらわれた、薄桃色のパラソルを買うことにした。
 いざ会計となると、カルヴァドスはホテルの名前と部屋番号を店主に告げ、明細にサインをするだけで済ませてしまった。
 アイリーンとしては、払いますと言いたいところだったが、エクソシアの習慣に詳しくないアイリーンは、外で女性がお金を払うと男性に恥をかかせることになる可能性も考え、お金の話はホテルに帰ってからすることにした。
 それから、オスカーに頼まれていた便箋とペンを買ったが、それもカルヴァドスはホテルの名前と部屋番号を伝えてサインで済ませてしまった。