エクソシアの帝都に近いエクシール港への入港は予定通りで、何時ものお約束の場所に大海の北斗七星号は繋留された。
 カルヴァドスの指示を受けたアンドレが、積み替えの必要な貨物類を次々に他の船へと割り振っていき、それにあわせて若手のクルーが荷物を降ろして、積み替え先の船へと運んでいった。
 荷物の積み替えの進捗をカルヴァドスが確認に行っている間に、アイリーンは着替えをすませ、日頃は付けない薔薇の香水を使った。
 船の上から見るだけでも、エクソシアの街はデロスの港町とは桁違いに大きく、街の雰囲気が洗練されていることが感じられたので、カルヴァドスがみすぼらしい娘を連れていると思われないように、ドレスもパニエを着用する旅行着に着替えた。
 アイリーンが部屋を出ると、ちょうど通りかかった若手のクルー達が目を見張ってアイリーンの事を見つめた。
「姫さん、すごい!」
「ああ、カルヴァドスさんが羨ましい! こんな素敵な姫さんを恋人に出来るなんて!」
「姫さん、ゆっくり楽しんできて下さいね。それから、素敵な便箋と文字を書く練習用のペンをお願いします」
 オスカーは言うと、お金をアイリーンに手渡そうとしたが、アイリーンは後で良いからと受け取るのを断った。
 すると、オスカーは銀貨一枚を見せて言った。
「あの、これ、タリアレーナで給料を貰うまでの自分の全財産なんです。少しは手元にないと、賭けポーカーにも参加できないですし、その、予算、あんまりないんで、そこのところ、宜しくお願いします」
 オスカーの言葉に、思わずアイリーンは笑みをもらした。
「了解です。高すぎるものは買うつもりはないので、安心して下さいね」
 アイリーンは笑顔で言うと、ボンネットが飛びそうになり、慌てて両手で押さえた。
「姫さん、帽子は船を降りてからかぶった方が安全ですよ」
「ありがとう、オスカー」
 アイリーンはボンネットを脱いで手に持ち、船縁に座って進捗確認をしているカルヴァドスの元へと向かった。