お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

「アンドレ、ダリウス王子はアイリーン王女を傷つけると思うか?」
 カルヴァドスの問いに、アンドレは暫く黙してから口を開いた。
「あれは病気でございます。弱いものを痛めつけ、傷つけることを楽しみとする。殺された侍女や婚約者達は二目と見られぬ姿であったと聞いております」
 アンドレの言葉にカルヴァドスは言葉を飲み込んだ。
「美しきものほど、過酷な仕打ちを受けるとも。ましてや十年近く拒絶されていた婚姻を無理矢理押し通したのですから、もはや姫には逃げる道はなく、この婚姻を回避すると言うことは、デロスが滅びるという事になりましょう」
 アンドレが言い終えると、カルヴァドスは頭の中を整理した。
 さっきアイリーンから聞いた話をパズルのピースをはめ込むようにアンドレのレポートにはめ込んでいく。
「奴は、婚姻なくばデロスを墓場にすると、海の女神の神殿をデロス国民の墓標とすると姫さんを脅している。さらに、その時には、デロス王とウィリアム王太子を公開処刑に処するとも言っている」
「なんですと!」
 流石のドクターも目を剥いた。
「海の女神の神殿を墓標にするなど、海に生きるものを愚弄すること。六ヶ国同盟が許すはずありません」
 アンドレも言い募った。
「問題は、姫さんが六ヶ国同盟の国家元首に直接の助けを求めていないことなんだ。姫さんは、奴に脅されて冷静な判断を欠いた。まあ、この点は奴の誘導というか、策もあったんだろうが、一番有効なエクソシア皇帝へ助けを求めていない。多分、身内を頼って、エイゼンシュタインとタリアレーナを頼ったんだろうが、手紙が届くのはいつになることやらだ。あとは、直接のやり取りのあるイエロス・トポス。でも、港を見て分かったと思うが、俺達はデロスの港に問題なく入れたが、デロス船籍のクーリエ船の殆どは入港を邪魔されていた。そうなると、急ぎの手紙は検閲されにくい、足の遅い客船に載せられたと考えるのが正しいだろう。そうなると、デロスは六ヶ国同盟の助けをタイムリーに受けることが出来ない」
 カルヴァドスは言うと、丸めたレポートをアンドレに返した。
「持っててくれ。皇帝陛下を説得するのに役に立つかもしれない」
 ドクターとアンドレが不安そうにカルヴァドスの事を見つめた。
「姫様は、正体を明かされたのですか?」
 ドクターの問いにカルヴァドスは頭を横に振った。
「嫌、未だに、姫様付きの侍女だって言い張ってる」
「では、どうなさるんですか?」
 アンドレが心配そうに問いかけた。
「みすみす、奴に姫さんをくれてやるつもりはない。だが、姫さんが婚約を正式に解消して神殿を出るのに半年、輿入れするのはそこから三ヶ月後と日付が切られている以上、何としても、期限までに一旦、姫さんを国に返さなくちゃいけない。そのために、俺はこの船を使わせるつもりだ。そして、必ず姫さんを国に帰れるようにする。その上で、匿名の情報としてエクソシア皇帝にデロスの海の女神の神殿をパレマキリアが霊廟化しようとしていることなどをリークして、エクソシア皇帝を動かすつもりだ」
 カルヴァドスの決意に、ドクターとアンドレは視線を交わし有った。
「もし、姫様が帰国された直後にパレマキリアに連行されるような事になったらどうするのですか?」
 ドクターが不安を口にした。
「奴は、婚約解消が整ってから三ヶ月後には輿入れすることを要求している。流石に、いきなり連れ去りはしないと思うが・・・・・・」
 カルヴァドスの言葉に、言いにくそうにアンドレが口を開いた。
「婚約が整えば、対外的には何時でも姫様をパレマキリアへ移送する事は可能です。そして、婚約してしまえば、姫様に危害を加えることも不可能ではなくなります」
「デロスには、姫さんの警護をする狼と愛犬が居る」
「そこです。人よりも忠実で買収の効かない警護と姫様を引き離すには、パレマキリアへの招待などが効果的だと計画していると思われますが・・・・・・」
 八方塞がりな状況に、カルヴァドスは怒りのやり場に困って机を殴りつけた。
「いざとなれば、俺も腹は括る。とにかく、引き続き、調査とデロスの最新情報を集めてくれ」
「かしこまりました」
 アンドレは深々と頭を下げた。
「俺は、部屋に戻る」
 カルヴァドスは立ち上がると、ドクターの部屋を後にした。