(・・・・・・・・カルヴァドスさんは優しい。だから、誤解してしまう。本当に、私のことを好きになってくれたのかと・・・・・・。繕いものも、野菜の皮むきも、何も出来ない役立たずな私。姫巫女とは大違い。・・・・・・海の女神様、明日一日、明日一日だけ、私がカルヴァドスさんの恋人で居ることをお許し下さい。明日が終わったら、潔くカルヴァドスさんのことは諦めます。そして、お兄様を探すことに集中して・・・・・・。お兄様が見つかったら、私は、すぐ国に帰ってダリウス殿下に嫁ぎます。どうか一日だけ、自分が王女だと言うことも、姫巫女だということも全て忘れて、カルヴァドスさんの好きな姫巫女の身代わりとしてで構いませんから、あと一日だけ、あと一日だけ幸せな時間を過ごさせて下さい。明日が終わったら、もう幸せになることは諦めます。何も求めず、民と国のために一生を捧げます。だから、どうかあと一日だけ、私の我が儘をお許し下さい・・・・・・・・)
大粒の涙がハラハラと、雨のように胸の前で組んだ手の上に降った。
アイリーンは涙を拭うと、金庫の鍵を取り出し、中から銀貨と銅貨をまとめて取り出し、一つだけルビーのネックレースも取り出して身に付けた。
エクソシアでデロスのお金が使えるのか分からなかったが、少なくとも金のチェーンとルビーの石は換金できるだろうから、そうすれば、一日エクソシアの港町でカルヴァドスと楽しく過ごすだけのお金にはなるだろうとアイリーンは考えると、残りのお金と宝石をしまい金庫に鍵をかけた。
それから、大きく深呼吸をするとパジャマに着替えた。髪を整えようと、備え付けのワードローブの鏡を見たアイリーンは自分の目を疑った。
日頃から、身なりには気をつけてきたつもりだった。それなのに、ストロベリーブロンドの髪は艶を無くし、海の濃い潮風のせいか触りも髪は固くパサパサだった。
日に焼けない肌はそのまま白かったが、肌は荒れ、食事が食べられなかった間に痩せたのか、頬が心なしか不健康にこけていた。
(・・・・・・・・これが、本当の私? そばで世話を焼いてくれる侍女が居なければ、こんな無様な姿に・・・・・・・・)
思わず笑いがこぼれた。
船に乗ってからと言うもの、鏡も見ずに身繕いだけしてきたが、どこからどう見ても町娘にしか見えない。この姿では、もはや貴族の娘かどうかも怪しいものだ。ましてや王女だなんて、本当のことをカルヴァドスに話したとしても『冗談も休み休み言ってくれ』と言われるのがオチだと、アイリーンは声をあげて笑ってしまった。
(・・・・・・・・ああ、バカみたい。今の私が紛い物以外の何だって言うの? こんな姿、フレドが見たら他人の空似だと思うわ。これじゃあ、お兄様だって、私だと信じてくれないかも知れないわ。その前に叔母様だわ。もう長い事お目にかかっていない叔母様に、私がアイリーンだと信じてもらえなかったらどうしよう。明日、少しまともなドレスを買った方がいいかも知れない。ああ、こんな無様な姿なのに、私は自分だけ、ずっと変わらない姿だと思い込んでいたのね・・・・・・・・)
泣いても笑っても流れる涙を拭い、アイリーンは窓のカーテンを少しずらすと、一人先にベッドに横になった。
(・・・・・・・・女神さまとの約束は明日一日だけ。もう、カルヴァドスさんには甘えちゃいけない・・・・・・・・)
アイリーンは、久しぶりに壁の方を向いて横になると、出来るだけカルヴァドスが寝るときに邪魔にならないように、壁際に寄って眠りについた。
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