お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

(・・・・・・・・ああ、なんて事・・・・・・。私は、私は自分自身の代用品だったんだ。カルヴァドスさんが私を好きになったのは、私が姫巫女に似ているから。カルヴァドスさんの瞳に映っているのは私であって私じゃないんだ・・・・・・。あの温もりも、優しい腕も、逞しい胸も、情熱的な口付けも、愛の言葉も、どれ一つとっても、全てはカルヴァドスさんが想いを寄せている姫巫女のもので、私のものはないんだ。私だけが勝手に浮かれて、愛されていると思い込んでいただけなんだ。カルヴァドスさんは、いつも私のことを『姫さん』って呼んでた。そうか、カルヴァドスさんは私の中に姫巫女の私を見てたんだ。今ここにいる私自身ではなく、記憶の中の憧れの人を・・・・・・。私の行いの何がいけなかったの? 私は、ただ民の幸せと、国の平和の為だけに頑張ってきたのに、何が足りなかったの? たった一人の愛を得るにも値しないなんて・・・・・・。ただ、絶望するためだけに生まれてきたの? ああ、そういうことなのね。これだけ絶望すれば、もう、ダリウス殿下に嫁ぐのも苦ではなくなるわね。逃れられない運命に絶望して、民と国を守るためにダリウス王子に嫁ぐ。それが私の運命なのね・・・・・・・・)

 アイリーンの体から力が抜けた。
 遠い目をしたアイリーンは、ストンとカウチに腰を下ろした。
「大丈夫か?」
 突然のことに、カルヴァドスはアイリーンの事を見つめた。
「どこか具合が悪いのか? アイリ?」
 アイリーンは無言で頭を横に振った。
「俺が悪かった。知ったような口をきいて。王様とか、お姫様とか、皇帝とか、色々決まり事とか有って、何でも手紙を書けばいいってもんじゃないよな。なにもしらないのに、勝手なことをいって、アイリを困らせるような事を言って、すまない」
 カルヴァドスは何度もアイリーンに謝罪した。
「カルヴァドスさんは、何も悪くありません。私がバカだからいけないのです。もっと外交や色々なことを学んで、的確なアドバイスが出来れば良かっただけなんです」

(・・・・・・・・何を言ってるんだアイリは? 色々学ぶ? 二年も病の王太子の代理と姫巫女の務めを一人でこなし、半年も病の国王の代理として政までして、寝る暇だって無かっただろうに。外交なんて、そんな追加要素を学ぶ暇があったら、睡眠をとるのが普通だろうに。なのに、どうしたんだ? 何かが違う。さっきまでのアイリと何かが、何かが違う。まるで、完全に絶望したみたいな。全てを諦めたみたいな。なんだ? この運命をただ受け入れようとするような・・・・・・・・)

 カルヴァドスは困惑した。
「姫様がパレマキリアに嫁がれたら、カルヴァドスさんもガッカリですよね」
「えっ?」
 カルヴァドスは耳を疑った。
「そうしたら、もう、デロスに寄港する必要もなくなりますね」
「アイリ、何を言ってる?」
 カルヴァドスは困惑したように問いかけた。
「姫様がパレマキリアに嫁いだら、巫女長が祭事を取り仕切られる筈ですから、観光客も減りますよね。ウィリアム殿下が結婚されて、お姫様が産まれるまで、まだまだ随分かかるでしょうし」
「アイリ?」
 カルヴァドスは不安になってアイリーンの肩を掴もうとしたが、アイリーンはその手を払いのけた。
「少し、一人になりたいのですが、外へ行っても良いですか?」
 アイリーンの問いに、カルヴァドスは頭を横に振った。
「ダメだ。夜のデッキは危険だから、俺が出て行く。戻ってきて良くなったら、窓のカーテンをどこか一ヶ所で良いから開けて置いてくれ。それまでは席を外すから」
 カルヴァドスは言うと、すぐに部屋を後にした。