お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

「いくら何でも、王族の結婚でそれはないだろう!」
 カルヴァドスは動揺して頭をかきむしった。
「元々、姫様の結婚は、ダリウス殿下による脅しで決まったことです」
 アイリーンの言葉にカルヴァドスの動きが止まった。
「どういうことだ?」
 カルヴァドスは、今まで聞くことが出来なかった、アイリーンが極度に怯える原因を知ることが出来る機会を得たとばかりに追求した。
「実は、ダリウス殿下は、姫様が結婚を承諾しないのであれば、全軍で海と陸からデロスに侵攻し、民を皆殺しにし、陛下とウィリアム殿下を公開処刑し、海の女神の神殿を元デロス国民の霊廟と名前を変えてやると・・・・・・」
 カルヴァドスがアイリーンを抱きしめた。
「もう良い。辛いことを言わせて済まなかった」
 あまりの事に、カルヴァドスはアイリーンに話させたことを後悔した。

(・・・・・・・・なんて事だ。病気の陛下と王太子の代わりに政を行い、姫巫女としての務めを滞りなく勤め、民を愛し大切にしていたアイリに、そんな卑劣な脅しをかけていたとは・・・・・・。どれほど辛かっただろうか? どれほど苦しかっただろうか? 頼る父も兄も病の床で、きっとアイリは誰にも相談せず独りで決めたんだ。民と国を守るため、パレマキリアに嫁ぐことを・・・・・・。間違いない。でも、そんな状態で、こんな無茶をしてまで、一体誰に逢いに来たんだ?・・・・・・・・)

「怖かっただろう? そんな事を言う奴らに嫁ぐなんて・・・・・・」
 アイリーンは無言で頷いた。口を開いたら、自分がアイリーンだと名乗ってしまいそうで、アイリーンはギュッと唇を閉じて言葉を飲み込んだ。
「大丈夫だ。俺が、絶対に期日までに国に帰れるように、この船で迎えに行くから。空身でとばせば、タリアレーナからデロスなら、余程の天候不良がない限り、一ヶ月あれば十分だ。だから、それまでは時間がある。何をするのか、アイリは俺には話してくれなさそうだから、もう訊かない。でも、必ず迎えに行くから待っていてくれ」
「でも、お仕事は? 船長さんが、承諾してくれないかも・・・・・・」
 アイリーンの言葉に、カルヴァドスは笑みを浮かべて頭を横に振った。
「それは心配ない。俺が説得するから」
「カルヴァドスさん・・・・・・。どうして、どうして、そんなに私に親切にしてくれるんですか? 私は国に帰って、他の人に嫁がなくてはいけないのに・・・・・・」
「そりゃ、アイリを他の男になんて嫁がせたくない。でも、その前に、アイリを嘘つきにしたくない。約束を破るようないい加減な人間だと、アイリの事を思われるのは嫌だ。でも、結婚は、阻止する方法が有るなら絶対に阻止してやる!」
「それは、ムリです。デロスの国としての存亡がかかっているのです」
 答えたのは侍女ではなく、王女としてのアイリーンだった。
「でも、お姫様には海の女神もついてるし、デロスには六ヶ国同盟がついてるだろ? お姫様はちゃんと六ヶ国同盟に助けを求めたんだよな?」
 カルヴァドスは確認するように尋ねた。
「亡くなられた王妃様の妹君がエイゼンシュタインとタリアレーナに嫁がれていらっしゃるので、両国とイエロス・トポスにお手紙を書かれたのは知っています。でも、ダリウス殿下が、手紙が着く頃には、デロスは無くなっているかも知れないと、妨害するようなことを口にされていたと・・・・・・」
 アイリーンは思い出しながら言った。
「エクソシアの皇帝には書いてないのか?」
 カルヴァドスは驚いたように問いかけた。
「多分、書かれていないと思います。陛下ならば、面識もおありでしょうが、姫様は姫巫女としての勤めがあり、国を離れることが出来る時間に限りがあり、パレマキリア以外は訪問されたことが無く、エクソシアの皇帝陛下とはご面識が無いので、書かれていないと思います」

(・・・・・・・・くそ! 何で、エクソシアに助けを求めなかったんだ? タリアレーナより近く、タリアレーナより軍備も勝っているのに。いくらエイゼンシュタインが強いと言っても西の果てでは遠すぎるし、東の果てのタリアレーナの軍備よりも手前のエクソシアの方が遥かに軍事力では勝っているのに・・・・・・・・)

 カルヴァドスは考えると、苦しげに呻いた。