お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

 口付けを交わしているうちに、自制心を失ったかのようにいきり立つ男性の象徴に気づかれないように、カルヴァドスはゆっくりとアイリーンを横にならせて腕枕で仰向けに寝かせた。
 婚約者の有る身で、アイリーンがカルヴァドスと同衾していることはモラル上、大きな問題が有ることは事実だが、アイリーンは一度たりともカルヴァドスに肌を見せるような油断は見せていない。そして、いま、この状況に至っても、アイリーンは情熱に流されることなく、王女としての自覚を保っていた。
 それでも体は正直で、カルヴァドスが男としての性に苦慮して居るように、アイリーン自身も、今まで感じたことのなかった体の疼きと、愛するカルヴァドスにもっと触れられたいという衝動と激しく戦っていた。

(・・・・・・・・私がダリウス殿下に嫁ぐのは民と国のため。いくら私が殿下を愛せないからと言って、殿下を謀って良いと言うことにはならないわ。だから、この体を見せて良いのはダリウス殿下だけ。この体に触れて良いのもダリウス殿下だけ。あの日、婚姻を承諾した時から、もはやこの体は私のものではなく、国のものであり、ダリウス殿下のものなのだから、身勝手な行いは許されない。私は、デロスの王位継承権を持つ王女なのだから・・・・・・・・)

 アイリーンは心の中で自分を激しく叱責した。

(・・・・・・・・アイリーンが本当のことを話してくれるまで、絶対に肌を重ねる事は出来ない。アイリーンはデロスの王女。ましてや、デロスはパレマキリアに占領されそうな状況だ。だから、どう頑張っても、たかが船乗りの俺と一緒に国を捨てて逃げられる状況じゃないし、そんなこと、アイリーンの責任感が許すはずがない。でも、もしアイリーンが本当の事を話してくれたら・・・・・・。いや、せめてタリアレーナに行く理由だけでも本当のことを話してくれたら・・・・・・。ダメだ。アイリーンはデロスの王女、姫巫女だ。正式な婚姻もなく、なし崩しに肌を重ねる事は絶対にできない。そんなことをすれば、アイリーンは生涯自分を責め続けるだろうし、海の女神の怒りを買うことにもなりかねない。なにしろ、姫巫女は海の女神の化身とも言われ、神聖な存在だから・・・・・・・・)

 並んで横になる二人は、心の中で自らと闘い続けていた。
「カルヴァドスさん・・・・・・」
 アイリーンが小さな声でカルヴァドスの事を呼んだ。
「どうした、アイリ?」
 カルヴァドスはほんの少し上体を起こすと、アイリーンの額にかかるおくれ毛を整えながら問いかけた。
「本当は、カルヴァドスさんは・・・・・・」
 キスの先も望んでいるのだろうとは、アイリーンの口からは、やはり尋ねることは出来なかった。
「俺は、十分幸せだぜ。アイリが俺を愛してくれるなんて、思ってもいなかったから。さっき、アイリが俺を愛してるって言ってくれて、天にも昇る気持ちだ。だから、これ以上は何も求めない。アイリには婚約者がいるから・・・・・・。アイリが罪悪感に苛まれるようなことを求めるつもりはない。だから、何も心配しなくていい」
 カルヴァドスの言葉にアイリーンはカルヴァドスの事を見つめ、ゆっくりとカルヴァドスの体に腕を回した。
「お休み、アイリ。愛してる・・・・・・」
「おやすみなさい、カルヴァドスさん。私も愛しています」
 カルヴァドスはギュッとアイリーンを抱きしめた。
 互いの温もりを感じているうちに、船の揺れが揺りかごのように二人を眠りへと誘った。

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