お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

「アイリ?」
 カルヴァドスが心配げに問いかけた。
「ごめんなさい。私は気付かぬうちに、あなたの命を危険に曝してしまっていたのです」
 取り乱すアイリーンをカルヴァドスはしっかりと抱き締めた。
「アイリ、落ち着くんだ。何があっても俺は大丈夫だから・・・・・・」
 しかし、カルヴァドスの声はアイリーンの耳には届かなかった。
「私は、あなたを愛してはいけなかったのです・・・・・・」
「アイリ・・・・・・。どうしてそんな事を?」
「あの方に知れたら・・・・・・。あの方は、きっとあなたの命を狙うはずです。最初から分かっていたのに。あの方の性格も何もかも。それなのに、ごめんなさい。やはり私は、エクソシアで船を降りて客船に乗り換えます。これ以上あなたのそばに居たら、あなたに迷惑が・・・・・・」
 アイリーンは言うと、カルヴァドスの腕から逃げようとした。
「アイリ、よく聞くんだ。俺は何があってもアイリから離れたりしない。デロスを出る前に約束しただろ? ちゃんとタリアレーナ迄送っていくって。だから、何にも心配しなくて良い。アイリの事は必ず俺が守るから。アイリは、俺の事なんて心配しなくていい。だから、俺に笑顔を見せていてくれ・・・・・・」
 月明かりの下、神秘的な光を纏うアイリーンとカルヴァドスが見つめ合った。
「アイリ、あなたを俺のものにすることが出来るなら、俺は命だって捨てられる」
「・・・・・・カルヴァドスさん・・・・・・」
  カルヴァドスの瞳に引き込まれるように、アイリーンはカルヴァドスを見上げた。
 スッとカルヴァドスの指がアイリーンの頤に触れ、アイリーンは瞳を閉じた。
 それを合意と取ったカルヴァドスは、ゆっくりと唇を重ね、啄むように何度も角度を変え、ゆっくりと唇を重ね、それからゆっくりと口付けを深めていった。

 謁見の間で、無理やりダリウス王子に口付けられた時に感じた恐怖も、嫌悪感も、怒りも憎しみもそこにはなかった。
 優しく、甘い口付けは、アイリーンの打ち崩されそうな理性を更に揺るがした。
 息継ぎを経て、重ね直される唇、深く互いを求め合う口付けに、アイリーンは今まで感じたことのない体の疼きを感じた。
「愛してる、アイリ・・・・・・」
 息継ぎの間にも、愛を囁くカルヴァドスの腕の中で、アイリーンは足に力が入らなくなり、その場に座り込みそうになってしまった。
「ここから先は、部屋でしょう」
 アイリーンを軽々と抱き上げたカルヴァドスは、足早に自室に戻りアイリーンをベッドに下ろすとしっかりと扉に鍵をかけ、念入りにカーテンをしめた。
 情熱的な口付けに酔い、うっとりとした表情を浮かべベッドに横たわるアイリーンの姿は扇情的だった。
「ああ、アイリ・・・・・・」
 カルヴァドスはアイリーンを抱きしめながら、再び唇を重ねた。
 愛し合い求め合う二人の心が、一つになりたいと二人の体を火照らせた。しかし、情熱に流され、後先考えずに越えてはならない一線があることを二人はちゃんと理解していた。
「アイリ、今日は、君を抱き締めて眠りたい・・・・・・」
「はい。私も、カルヴァドスさんの温もりを感じていたいです」
「じゃあ、着替えの間、俺は外に出てるから・・・・・・」
 そう言ってカルヴァドスは体を離した。
「待ってください。カルヴァドスさんの事を信じてますから。だから、後ろを向いて居て下されば、それで構いません」
 アイリーンの言葉に、カルヴァドスは自分の理性を必死に奮い立たせた。
「じゃあ、そっちのカウチで待ってる」
 カルヴァドスは言うと、ベッドの方に背中を向けカウチに座った。

 衣擦れの音がして、アイリーンがあられもない姿になっている事は簡単に想像ができ、カルヴァドスの体が、男としての性が意思に反して反応してしまう。
 どんなに理性を奮い立たせても、生理現象は止められないのが男の悲しい性だ。しかし、そんな無様な姿を見られて、アイリーンに誤解されては困るので、カルヴァドスは必死に一番萎えそうな父との喧嘩の事を思い出して、その危機を乗り越えた。