独立国としては、多分、世界で一番小さい国、デロス王国。
 陸地から海に突き出す半島という表現をすると、細長いイメージが沸くが、実の所、陸地に接する部分は非常に狭く、海に突きだした断崖の先にほぼ円形をした王国の本土が広がる。外海に突きだしているので、外海に面した湾には海外からの船舶や貿易船が補給に立ち寄る港があり、国境となる断崖と本土に囲われるようにして作られた砂浜がある。
 何よりもデロス王国を特別な存在にしているのは、海の女神を祀る神殿だ。
 唯一、陸地を接しているパレマキリア王国からは、デロスはパレマキリアの半島の一部にすぎないのに、勝手に独立したと言われているが、歴史的に見るとデロスは元々独立した島だったが、長年の地殻変動もあり、現在では隣国パレマキリア王国と陸地を接するようになっている。
 しかし、デロスの島としての歴史は古い。列強六ヶ国が信仰する神の神殿がある永世中立地域で世界最高峰のセイクリッド・ノーザン・ティアのある、イエロス・トポス(別名:神の降りる地)には、神に仕える神聖な民が住んでいる。かつて、海の女神を崇めるためにイエロス・トポスの民が移り住み、神殿を建てたのがデロス島であり、北にあるイエロス・トポスとの交流のために街道ができ、街が生まれ、その過程で広い領土を持つパレマキリア王国が生まれたと言われている。
 しかし、広大なパレマキリア王国に対して芥子粒のように小さなデロス島にあるデロス王国の力関係は言わずとしれたことで、折りにつけパレマキリア王国はデロス島を自国の領土だと自治権を主張するが、デロスの民にはイエロス・トポスの民と同じプラチナブロンドが多い事から見ても、デロス王国がパレマキリア王国の一部であるという説は列強六ヶ国から全否定されている。
 また、イエロス・トポスの民が海の女神を祀るために移り住んだことから、代々、王家の姫は結婚するまで、海の女神の神殿で巫女として仕えるが、姫がいない場合は、王家の親族の娘から巫女が選ばれる。
 デロス王家は開かれた王家であり、男女共に王位継承権を平等に持てるが、それが逆にパレマキリア王国に付け入る隙を与えているとも言われ、デロス王家にとっては両刃の剣ともいえた。