そのラインハルトの小隊を、少し離れた安全な場所から冷たい目で観察している若い男がいた。黒い制服に黒い帽子。武装親衛隊だ。少佐と同じくティーガーIに搭乗し、双眼鏡で彼を眺めている。オットーだった。

 オットーもまた、ラインハルトほどではないが手柄を立てて少尉にまで昇進した。軍歴の乏しい庶民出身の若者が一年余りでそこまで昇進したのは並大抵の努力では叶わなかった。他の者なら嫌がる仕事も進んでやった。その中には人前では公言できない汚れ仕事もある。彼をそこまで駆り立てたのはラインハルトへの憎悪だった。自分からヒルダを奪った憎い男を見返してやり、ヒルダを奪い返す。あわよくば戦場でのどさくさに紛れて殺してやろう。そう企んでいたのである。

 オットーはヒルダとの約束を忘れていなかった。大きくなったらお嫁さんになりたいと言ったヒルダ。ああ。ラインハルトさえいなければ。