ただの庶民のヒルダにとって由緒ある家柄出身のラインハルトは、いわば雲の上の人だ。身分が違いすぎる。

「ヒルダの十九歳の誕生日に正式に求婚するから、どこにいても、お祝いの薔薇の花束と結婚指輪を届けるために、必ず君の元へ行く。約束だよ」などと甘い言葉で囁かれたけれど、貴族の御曹司の妻になるだなんてぜんぜん実感が湧かない。

 ヒルダの父はその話を聞いて飛び上がって喜んだ。しかし彼の家は、はたして庶民の娘との婚姻を認めてくれるのか。それについてはラインハルトは何も言わない。言わないが反対されているのではとヒルダは薄々気がついていた。