オットーが気を取られている隙に、後ろから憲兵に羽交い絞めされてしまった。そして爆撃が始まった。イギリス空軍によるベルリン爆撃である。急いで護送車へ引きずって行こうとする憲兵を振り切り、オットーはヒルダのいる病院を目指して走り出した。爆発音と爆風、建物が崩れる音、その間をかいくぐり、走る。

 遠くに病院が見えてきた。玄関の前に白衣のヒルダが見える。手を振っている。

 逃げろ。駄目だ。外にいたら駄目だ。

「ヒルダあああ。逃げろおおお!」オットーの叫びが届いたのか、ヒルダが何か言っている。でも爆撃音にかき消されて聞こえない。

 次の瞬間、間近で爆発が起きて彼は跳ね飛ばされ、瓦礫に叩きつけられた。痛みをこらえ懸命に立ち上がった彼は見た。病院があったはずの場所は何もなくなっていた。