誰何(すいか)されないうちにヒルダを捕まえよう。そう焦ってもヒルダは見つからない。病院は負傷者たちが寝ているベッドで溢れていた。薬もきっと満足に与えられていないのだろう。すでに死臭が立ち込めている。やっとヒルダを見つけた。さまざまな器具が乗ったワゴンを押しているところだった。オットーに気づいて立ちすくむ。

「なぜお兄ちゃんがここにいるの?」
「ヒルダ。こっちへ来なさい」

 有無を言わさずヒルダの腕をつかんで、外へ引っ張ってゆく。そこに乗り捨てた車にヒルダを乗せ、自分も乗りこむ。黙って見つめてくるヒルダへ、ラインハルトから預かった指輪と手紙を見せる。

「それは?」
「ラインハルトは死んだ」オットーがそう言うと、ヒルダははっと息を飲んだ。