皺だらけの手紙の日付は二週間前のものだった。ヒルダはベルリンの病院で看護師として働いている。ラインハルトからの手紙の宛先はヒルダの自宅ではなく病院宛てになっていた。

 約一年前、ナチス党の支持者である父からの言いつけにより、ヒルダは軍の祝賀会の手伝いをした。そこでヒルダは貴族の家柄出身の青年将校に見染められたのだ。金色に輝く巻き毛と吸い込まれそうに碧い目の彼女に、その凛々しい青年は心を奪われたのである。それ以来、たびたび、手紙が届くようになった。手紙だけではなく、ラインハルトからの熱烈な希望に従い何度か逢瀬を重ねた。