ベルリンへの帰路は危険に満ちていた。敵はもちろんだが味方もできれば避けたい。黙って隊を離れたオットーは捕まったら軍法会議にかけられる。

 勝手に奪った軍車両は途中で二回パンクし苦労して修理した。しかし今度はガソリンが切れそうだ。遺棄された装甲車や戦車から補給しつつ、なんとかベルリンまで持たせるしかない。彼はヒルダにラインハルトが死んだ事実を突き付けてやり、彼から離れてしまったヒルダの心を取り戻すつもりでいた。そして二人でどこか遠くへ逃げて、一緒に暮らそう、そう思っていたのだ。

 やがて、七日あまり掛かってやっとベルリンに到着した。かつての首都は度重なる爆撃により様変わりしていた。破壊された建物の瓦礫がそこいらじゅうに散らばっている。

 ヒルダがいるはずの病院は奇跡的に無傷だった。ちょうどガス欠になったキューベルワーゲンを病院の前に乗り捨てたオットーは、急いで病院の中へ、ヒルダの姿を探す。いきなり侵入してきた親衛隊の制服に、看護師や医師たちが露骨に顔をしかめる。