「オットー。頼みがある」
「なんでしょう。少佐殿」

 少佐の手が細く震えている。その手が冷ややかな目のオットーに伸びる。血だらけのその手は何かを握っている。

「これを、ヒルダに、渡してほしい」
「えっ」
「結婚指輪と、彼女への手紙だ」
「・・・少佐殿。私は」
「彼女の誕生日まで、きっと私は生きていないと思っていたよ。だからヒルダへの手紙を書いておいた。私が死んだら渡して欲しい」
「そ、それは」
「頼む。オットー。頼む。ヒルダを守ってやってくれ」

 くそ。くそう。おまえなんかに。

「おまえなんかに言われるまでもない。ヒルダを守るのは俺だ。おまえじゃない。ラインハルト。俺はおまえが憎かった。ずっとおまえを憎んでいたんだ」唸るような声で言いながら、オットーはラインハルトの胸倉をつかんで揺さぶる。何度も。何度も。そばにいた部下に「やめてください。もう死んでます」と制止されて、やっと我に返った。

 ラインハルトはすでにこと切れていた。